
防衛産業に不可欠な“全体最適”の視点
防衛産業は、研究開発から生産・整備に至るまで多段階の工程を持ち、契約や官公庁との調整も不可欠です。さらに、大手から中小の下請けまで幅広い企業が関与する裾野の広い産業構造を特徴としています。
防衛装備庁の資料でも指摘されているように、装備品は自衛隊員と並んで防衛力の中核を構成します。そのため、研究・開発から用途廃止に至るまでのライフサイクルを通じ、適時・適切に維持されることが求められます。したがって、防衛産業は「国家安全保障を直接支える特殊産業」であり、部分最適ではなく全体最適の視点が不可欠です。
私は防衛装備庁に在職中、行政手続や調達制度に従事し、企業評価制度(QCD評価)の設計と導入を担当しました。現在はOBとして、その経験を行政書士業務に活かし、防衛関連企業の経営課題に取り組んでいます。
部分最適の落とし穴とQCD評価の重要性
防衛企業が直面する典型的な課題は以下の通りです。
- 契約・申請の遅延による納期未達
- コスト削減優先による品質低下
- 内部調整の長期化による開発スピード低下
これらはすべて「QCD(品質・コスト・納期)」に直結します。QCD評価は、防衛装備庁が企業を選定・評価するうえで不可欠な指標であり、評価が低ければ受注機会を逃すだけでなく、利益率を確保することも困難になります。
その理由は、予定価格の算定にQCD評価が反映される仕組みにあります。評価が低ければ「利益率を抑制される構造的不利」を抱えることとなり、努力しても利益率が上がらないのです。
QCD評価の具体的なポイント
QCD評価は「品質・コスト・納期」の3本柱を基本としつつ、さらに企業体制や活動全般を精緻に評価します。
品質(Quality)
- 不適合の管理(工程内・流出・契約不適合)
- 再発防止体制・トラブル教育
- 教育研修体系・スキルマップ・人材育成計画
- 顧客満足度の把握と改善
コスト(Cost)
- コスト低減活動(目標・取組・成果)
- 外部取引価格の妥当性・加工費率の適正化
- 生産性測定・工数管理
- 原価情報の整備と透明性
納期(Delivery)
- 納期遵守率・遅延防止策
- リードタイム短縮活動(計画・取組・成果)
- 作業進捗確認体制
共通項目
- 小集団活動・改善提案制度の活性化
- 5S活動・現場モチベーション向上
- 内部監査・通報制度・コンプライアンス研修
- サプライチェーン管理(外注先へのQCD活動促進)
要点: QCD評価は単なる「現場努力」の採点ではなく、経営層の方針・教育・現場改善・コンプライアンス・サプライチェーン全体を含む総合力評価であり、その結果が利益率に直結します。
10Bプロジェクトに見る全体最適の力
防衛装備庁在職中、私は航空自衛隊にTOC(制約理論)の活用を提案しました。これが採用され、推進されたのが「10B(10 Billion)プロジェクト」です。
本プロジェクトの目的は、限られた予算の中で「100億円規模の効果」を創出することでした。例えば、F-15整備で作業を1回あたり2日短縮すれば、年間で延べ400日分の短縮となり、結果として機体1機分の稼働増加に相当する効果をもたらします。
これを実現したのが、以下のTOCの実践的手法です。
- WIP管理:仕掛品数を制限し、リソースを集中
- フルキット:事前準備を徹底し、中断を防止
- バッファ管理:進捗を全体で一元的に管理
米軍補給センターやC-5輸送機の改善事例でも示されているように、TOCは「短期間で大幅改善」を実現できる理論です。私はこの経験から、防衛産業の課題解決にも「高い目標を掲げ、小さな改善を積み重ねる」ことが成果に直結すると確信しています。そして、この考え方はQCD評価の改善にも直結します。
TOCは“働き方改革”のマネジメント理論
TOC(制約理論)は、生産管理手法にとどまらず、全体最適を実現するマネジメント理論です。組織には必ず「制約」が存在し、そこに改善を集中させれば組織全体の成果は飛躍的に向上します。逆に制約以外をいくら改善しても、全体成果は上がらず、労力は浪費されます。
制約改善が生む“ゆとり”と利益率の向上
例えば、制約リソースの稼働時間をわずか2割増やすだけで、利益率が1%から10%近くまで向上するケースがあります。防衛産業では、契約価格が予定価格で厳格に決定され、さらにQCD評価により利益率が抑制されるため、利益が限られやすい構造にあります。だからこそ、制約改善による効率向上は、利益率を押し上げる大きな効果を持つのです。
マネジメントこそが本当の制約
ゴールドラット博士は「多くの組織における最大の制約は、経営者や管理職の時間・意思決定能力である」と指摘しました。多様な部署・企業・官公庁が関わる防衛産業においては、マネジメントがどこに集中するかが、成果を大きく左右します。
QCD評価改善に向けたTOC×IE活用
ここで有効なのが TOCとIEの組み合わせ です。
- TOC(制約理論): 全体成果を阻害する「制約(ボトルネック)」を特定し、そこにリソースを集中する
- IE(インダストリアル・エンジニアリング): 業務フローを科学的に分析し、ムダを徹底排除する
- QCD評価: 改善結果を「品質・コスト・納期」という指標で測定・可視化する
例:部品調達の遅れが制約の場合、①TOCで真のボトルネックを特定 → ②IEで調達プロセスや在庫管理を効率化 → ③QCD評価で改善効果を可視化――という流れを構築すれば、防衛装備庁からの評価向上と利益率改善につながります。
QCD評価が低い企業の不利益
- 契約時に利益率が抑制される
- 随意契約や長期契約で信頼性の面で不利になる
- 総合評価方式は防衛装備品では限定的だが、適用される場合には評価点で不利になる
- 受注機会が減少し、経営基盤が弱体化する
結論: QCD評価は単なる形式的な採点基準ではなく、企業の収益と存続に直結する経営上の戦略課題です。
私が提供できる支援
- 行政書士として: 契約、許認可などの法務・手続面を支援
- 防衛装備庁OBとして: QCD評価制度の設計・導入経験に基づき、改善策を提案
- TOC×IEの知見で: 業務フローを分析し、制約を取り除く改善策を提示
QCD評価を高めることは、単なる点数稼ぎではなく、利益率を底上げする経営戦略です。
結びに
防衛産業におけるQCD評価は、単なる採点指標ではなく、受注機会と利益率を決定づける戦略的要素です。
もし、
- QCD評価を高めたい
- 利益率の改善に課題を抱えている
- 評価基準を踏まえた改善活動を勧めたい
とお考えであれば、ぜひご相談ください。制度設計に携わった経験を持つ私だからこそ、利益率改善につながる具体策をご提案できます。
QCD評価は「改善努力を正しく評価する仕組み」です。組織として行動を変えれば、評価は確実に変わり、その成果は利益率と信頼性に直結します。
その第一歩を、共に踏み出しましょう。
補足: 現在、私は防衛産業コンサルティングに加え、地域企業・住民課題の解決にもTOCを応用しています。防衛産業で培った知見を地域社会へ還元することも、私の使命です。
QCD評価・利益率改善のご相談
制度設計経験とTOC×IEの実務知見に基づき、貴社の制約特定から改善実装まで伴走支援します。お問い合わせは「行政書士内藤正雄事務所」まで。