防衛生産基盤強化法が令和5年10月1日から施行され、その中で、自衛隊の任務に不可欠な装備品等の安定的な製造等(製造、研究開発及び修理並びにこれらに関する役務の提供)の確保のための事業計画の認定を受けることで、必要な経費が国から支払われる制度(装備品安定製造等確保計画)が開始されました。今回は、それについて少し解説したいと思います。
なお、詳細については、防衛装備庁のHPを参照してください。
1 法律の概要
防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律(防衛生産基盤強化法)は、防衛生産・技術基盤を強化し、防衛産業による装備品等の安定的な製造等を確保するため、令和5年10月1日より施行されました。
本法律では、防衛生産・技術基盤の強化を図るべく、事業撤退による供給途絶やサイバー攻撃による企業からの情報漏洩といった、サプライチェーン上の様々なリスクに対応した措置を防衛省がとることができるように、以下について定められており、装備品安定製造等確保計画は、基盤強化の措置として考えられた施策になります。
・防衛産業の位置付け明確化
・サプライチェーン調査
・基盤強化の措置
供給網強靱化、製造工程効率化、サイバーセキュリティ強化、事業承継等
・装備移転円滑化措置
・資金の貸付け
・製造施設等の国による保有
・装備品等契約における秘密の保全措置
(参考)防衛生産基盤強化法に基づく施策等について(防衛装備庁HP)
2 基盤強化の措置(装備品安定製造等確保計画の認定)
⑴事業の概要
指定装備品等※1の製造の事業を行う事業者(防衛省と直接契約のある「プライム企業」でなくても、間接契約のある「サプライヤー企業」であれば認定が受けられる)は、防衛生産基盤強化法に基づき、その安定的な製造等を確保するための取組(特定取組。4類型)に係る事業計画(装備品安定製造等確保計画)を作成し、防衛大臣の認定を受けることができます。
事業計画が認定された事業者について、防衛装備庁は予算の範囲内において、特定取組に関する契約(特定取組契約)※2を締結し、特定取組に必要な費用について財政上の措置を行います。
※1 指定装備品等
指定装備品等とは、自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品等(武器、弾薬類、車両、船舶、航空機、無人機、宇宙機器、通信電子機材、情報システム、施設器材、需品、その他のうち、専ら自衛隊の用に供するもの)であって防衛大臣が指定するもの。
なお、具体的に、どの装備品等が指定装備品に該当するのかは、役所に確認する必要があります。
※2 特定取組契約
計画認定後に締結することになる契約で、「特定取組契約条項」に基づいて、契約を履行する必要があります(後述)。
⑵特定取組(4類型)の事例
以下のような取組が対象となります。
①供給網(サプライヤー)強靭化
原材料等の国産化、原材料等の備蓄、代替素材・部品等の研究開発など
②製造工程効率化
最新設備等の導入、人工知能(AI)による検査工程自動化、3Dプリンタ等の導入など
③サイバーセキュリティ強化(防衛省が定めるサイバーセキュリティ基準に適合するもの)
脆弱性評価、情報システム上の強化(多要素認証等)、社内人材育成、物理的対策の強化(監視カメラ等)など
④事業承継等
製造施設等の整備、製造等に必要なライセンスの取得、人材育成(技術・ノウハウの習得)など
⑶必要な手続きと注意点
①事業計画書の提出・認定
事業者が特定取組に関する事業計画を作成し、直接、防衛装備庁に提出し、防衛大臣の認定を受ける必要があります。手続の流れは以下のとおり。
ⅰ事業計画の構想
募集要項(装備品安定製造等確保計画認定申請募集要項)の記載内容を踏まえ、指定装備品の安定的な製造等の確保を目的とした事業計画の構想を練る。
一番大切なところであり、自社の問題を正確に定義した上で、問題解決できるように事業計画を立てることが重要です。(参考ブログ:「問いの力」とは?)
ⅱ申請書の作成(記載要領に従い作成)
ⅲ事前相談窓口への相談(手戻りがないように、事前に書類を確認してもらう)
ⅳ申請書の修正・提出
ⅴ書類確認・提出受付(毎月20日。土日祝日の場合、翌開庁日)
ⅵ審査・計画認定
②特定取組契約の締結
計画の認定を受けた事業者が、直接、防衛装備庁と「随意契約」を締結します。
なお、特定取組契約の締結には、プライム企業が自衛隊向けに指定装備品等を納入する契約を締結している(又は見込みがある)ことが条件になります。
また、特定取組契約については、「装備品安定製造等確保計画に係る特定取組に関する業務請負契約条項」及び「民需を共有する取得設備等の防需活用割合の実績報告等に関する特約条項」に基づいて、契約を履行する必要があるため、これまで防衛省と直接、契約を締結したことがないサプライヤー企業については、これまでのプライム企業に対する対応だけではなく、特定取組契約に基づき、防衛省側の要求に対応する必要があるので、特に注意が必要です。後で後悔しないためにも、事業計画の認定申請に先立って、契約条項をよく確認してください。
(主な懸念事項)
・特定取組契約に基づいて取得した設備等は、防衛省に無償で使用する権利があること
・防衛省と民間向けと併用する設備等の取得は費用を案分すること
・地方防衛局の監督・検査に対応しなければいけないこと
・防衛省側の原価調査に協力する必要があること
・費用を重複して請求しないこと(虚偽の資料を用いて防衛省側に損害を与えた場合、違約金を支払う必要がある)
③特定取組契約の履行・実施完了
「装備品安定製造等確保計画に係る特定取組に関する業務請負契約条項」に基づき、特定取組の実施により事業者が設備等を取得します。
④必要な経費の支払い
取得した設備等を用いて製造した部品(役務の提供を含む)が組み込まれた装備品等が自衛隊に納入された後、特定取組契約の定めに従い、必要な経費が支払われます。
なお、サプライヤー企業が認定を受けた装備品安定製造等確保計画について、財政上の措置の対象となるためには、プライム企業が指定装備品等に係る装備品安定製造等確保計画(包括)の認定を受ける必要があります。
(参考)制度を初めてお聞きになる方に(防衛装備庁HP)
「装備品安定製造等確保計画」に関して疑問点等がございましたら、お気軽に当事務所にお問い合わせください。
「行政書士内藤正雄事務所」