1 遺言と遺贈 生前に自分の意思を表示しておくためには?
遺言とは、被相続人の死亡によって身分上及び財産上の効果を発生させることを目的として、被相続人が生前に自分の意思を表示することにより、一方的な意思表示で成立する単独行為です。また、この遺言によって財産が相続人等に移転することを遺贈といいます。
⑴ 遺言のポイント
・満15歳以上で、意思能力があれば誰でも行うことができる(民法961条)
・いつでも全部または一部を変更することができる(民法1022条)
・遺言書が複数出てきた場合は、作成日の新しいほうが有効となる(民法1023条)
⑵ 遺言の種類 開封の仕方に注意
遺言(普通の方式)には、自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(民法969条)、秘密証書遺言(民法970条)の3種類がありますが、本人が全文を書いた自筆証書遺言と公証人に作成してもらう公正証書遺言とがあることを知っていれば十分です。
遺言書が無くても相続手続きを進めることはできますが、遺言書に書かれた内容は、優先事項となります。したがって、遺言書を残すことで、法定相続分とは異なる遺産分割の指定(指定相続分)もできます。
封筒に入った自筆証書遺言を見つけても開封してはいけません。遺言書(公正証書遺言を除く)の保管者または発見した相続人は、遺言者の死亡後遅滞なく、その遺言書を家庭裁判所に提出して、検認を受けなければなりません(民法第1004条)。開封すると加筆や改ざんを疑われてトラブルのものになるので、家庭裁判所で検認手続きを受ける際に開封します。検認とは、相続人に対して、遺言があることや、その内容を知らせることで、遺言書の偽造や追加・修正、変更などを防止する手続きのことをいいます。あくまでトラブル防止の手続きなので、遺言が有効か無効かを判断するわけではありません。なお、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、自筆証書遺言の原本が法務局に保管されるため、自筆証書遺言の検認は不要となりますが、有効を判断するものではない点に注意してください。
一方、「遺言公正証書」と書かれた公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されていて検認は不要であり、改ざんなどの恐れはないので、見つけたらその場で開封してもかまいません。
⑶ 遺言書で法的な効力を持つ内容 遺言書の内容は全て法的に効力を持つのか?
遺言書に書かれた内容で、法的な効力を持つ内容は民法で決められており、主なものは以下のとおりです(※は遺言執行者が必要になるもの)。どんな内容でも効力があるわけではなく、遺留分などには注意が必要です。なお、被相続人が重度の認知症だった場合など、遺言自体が無効となるケースもあります。
・相続分の指定(民法902条)
例 妻に全財産の2/3を相続させる
・法定相続人以外に財産を残す指示(民法964条)
例 友人に現金百万円を遺贈する
・結婚外で生まれた子の認知(民法781条2項)※
例 配偶者以外の女性との間に生まれた子を認知する
・遺産分割方法の指定(民法908条)
例 妻に自宅と土地を相続させる
・死後5年以内の遺産分割を禁止(民法908条)
例 相続開始から4年間は遺産の分割を禁止する
・遺言執行者の指定(民法1006条)
例 長男を遺言執行者に指定する
・相続人の排除(民法893条)※
例 次男を相続人から排除する
⑷ 遺言執行者の指定(民法1006、1009条)
遺言執行者とは、遺言執行のために特に選任された者をいいます。具体的には、遺言者の希望に沿って遺産を管理したり、分割して名義変更をしたりする権限を持つ人のことです。遺言執行者は、遺言書で指定することができ、未成年者や破産者以外ならば誰でも指定できます。
なお、遺言によって結婚外で生まれた子の認知(戸籍法64条に基づき、遺言執行者による届出が必要)や相続人の排除(相続排除の申立をできるのは被相続人本人のみであるため、本人に代わって遺言執行者が代理)をする場合には遺言執行者が必要です。
遺言書を開封して、遺言執行者が指定されていたら、相続人が勝手に遺産を処分することは原則としてできません(民法1012、1013条)。
なお、遺言執行者がいないとき、またはいなくなったときは、家庭裁判所は、利害請求人の請求によって、遺言執行者を選任することができます。
2 成年後見制度 判断能力が不十分である人を保護する
生前に自分の財産をどう処分するかは本人の自由ですが、認知症などで財産をだまし取られる恐れがあるならば、成年後見制度の利用を検討しましょう。
成年後見制度とは、知的障害、精神障害、認知症などにより、判断能力が不十分である人が不利益を被らないように保護する制度です。
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があり、法定後見制度は民法で定める後見制度であり、さらに後見(判断能力を欠く常況にある人を保護)、補佐(判断能力が著しく不十分な人を保護)、補助(判断能力が不十分な人を保護)の3つに分かれます。また、任意後見制度は、将来、判断能力が不十分になったときに備えて、本人が事前に(判断能力があるうちに)、任意後見人を選任する制度です。
遺言・相続に関して疑問点等がございましたら、お気軽に当事務所にお問い合わせください。