やさしく分かる相続の基本(3)遺産分割-遺産をどうやって分けるの?-

1 遺産分割 遺産の分け方

⑴ 遺産分割の種類

 被相続人の遺産を相続人で分けることを遺産分割といい、遺言書の内容によって相続財産を分割する指定分割(民法908条)と、遺言がなく、相続人全員の協議によって相続財産を分割する協議分割(907条1項)、協議が整わないとき、家庭裁判所が行う審判分割(民法907条2項)があります。遺言書がある場合には、指定分割が優先されます。
 なお、被相続人は、5年を超えない範囲で、遺言で分割を禁止できます(民法908条)。

⑵ 遺産分割の方法

 遺産分割の方法には、①遺産を現物のまま分割する現物分割(例えば、不動産は配偶者、現金は長男、株式は長女など)、②遺産の全部または一部をお金に換えて、そのお金を分割する換価分割(例えば、不動産を売って、そのお金を相続人で分割など)、③ある相続人が遺産を現物で取得する代わりに、他の相続人には相応の代償金を支払う代償分割(例えば長男が不動産を取得し、自分の持っている現金を長女に支払うなど)、④相続財産を持分の割合に応じて共有する共有分割(例えば、自宅を兄弟姉妹で共有するなど)があります。

⑶ 分割に困る財産(不動産、自社株など)をうまく分け合うには?

 自宅(不動産)を相続人で分けるのは物理的に不可能なため、複数の相続人の共有財産にする場合(共有分割)がありますが、不動産の共有にはたくさんの制限がついてきます。例えば、建て替えや売却するときなどには共有者全員の同意が必要になります。また、すべての共有者に家を使用する権利があるため、その使い方をめぐってトラブルになることもあります。さらに、もし共有者の一人が亡くなるとその人の相続人が新たな共有者となるので、関係者が増え、複雑になっていきます。その結果、売ろうと思っても、なかなか手続きが進まず、売れないということになります。そこで、相続人にある程度の代償資金(預貯金)がある場合には代償分割、代償分割できるほどの資金もない場合には換価分割を検討してみましょう。
 なお、換価分割については、売却するときは相続人全員の同意が必要であり、売却することで譲渡所得が発生するので、譲渡所得税と住民税の課税対象になる点に注意してください。また、不動産の売却であれば、登記や仲介費用も発生し、株式の売却であれば売却手数料がかかることにも注意が必要です。

⑷ 配偶者居住権(民法1028条) 残された配偶者の居住場所の確保

 これまで自宅に一緒に暮らしていた配偶者が亡くなった後、遺された配偶者が自宅に住み続けるには、原則として自宅の所有権を相続する必要がありました。ただ、自宅(資産価値が高い)を相続すると、他の相続人の相続分との兼ね合いで、現金・預貯金など生活資金があまり相続できず、生活が不安定になることも少なくありませんでした。
 配偶者居住権は、遺された配偶者が安心して自宅に住み続けられるようにするために整備されたものであり、「自宅に住む権利」と「自宅を所有する権利」を分け、配偶者に「自宅に住む権利」、他の相続人(例えば、長男)に「自宅を所有する権利」を与えることで、配偶者も遺産分割で現金・預貯金などを相続しやすくなり、生活の安定を図ることができるようにしたものです。なお、配偶者所有権を第三者に対抗するためには登記が必要です。

⑸ 寄与分と特別受益 相続人同士の公平さを保つ

 「亡くなった被相続人に資金提供していた」、また「被相続人から贈与を受けていた」などの生前の事情を考えずに法定相続分で遺産を分けると、相続人の間での取り分が不公平となることがあります。
 そこで、被相続人に特別な援助(資金提供、通院費用の肩代わりなど)をした相続人には、法定相続分以上の財産を取得(プラス)させる寄与分という制度があります(民法904条の2)。
 反対に、被相続人から生前に援助(遺贈、住宅購入資金、留学費用など)を受けていた分は特別受益といって、取得できる遺産から差し引く(マイナス)制度もあります(民法903条)。

⑹ 遺留分(民法1042、1046条) 最低限の権利を守る

 遺言書の内容は、原則として法定相続分や相続人の協議の内容よりも優先されるため、遺言書により被相続人の財産をすべて特定の人に遺贈することができますが、その場合、残された家族の生活の安定や財産の公平な分配という社会的要請が実現されません。そこで、民法は、一定の相続人が最小限の遺産を受け取ることができるようにしており、これを遺留分といいます。遺留分を請求することを遺留分侵害額請求といい、金銭の支払いを請求することができます。遺留分は、配偶者、直系卑属(子や孫)がいる場合は、被相続人の遺産の2分の1、直系尊属(親)だけの場合は3分の1の遺産相当額を請求することができます。もしも、同じ順位の相続人が複数いる場合は、その順位の遺留分を人数分で等分します。なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。

(例)妻と子二人が相続人の場合
 妻の遺留分 1/2(遺留分の割合)×1/2(法定相続分の割合)=1/4
 子の遺留分 1/2(同上)×1/2(同上)×1/2(人数で等分)=1/8

 遺留分侵害額請求は、相手に対して意思表示をすれば良いのですが、「言った、言わない」の争いになることもあるので、配達証明付きの内容証明郵便で行うのが良いでしょう。なお、遺留分を侵害されたことを知ったときから1年、あるいは相続開始から10年を過ぎると、遺留分侵害額請求はできなくなるので注意しましょう。

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行政書士内藤正雄事務所