どんな場合に遺言書は無効になるのか?

 遺言書は法の定めに従って作成しないと効力が認められないため、残される家族のために遺した遺言書が「無効」となってしまった場合、結局のところ家族に負担をかけ、争いを起こさせてしまうことにもなりかねません。では、どんな場合に遺言書は無効になるのでしょうか?
 なお、公正証書遺言については、公証人が遺言の内容の正確性、遺言要件の不備がないことをリーガルチェックして作成するため、無効となる可能性は低くなっています。

1 検認と無効の関係

 遺言は、その方式が厳格に定まっており、公正証書遺言を除き、相続開始後、遺言書を家庭裁判所に提出して、検認を受ける必要があります。
 この時、「検認の手続きを経たのだから遺言は有効だ」と思ってはいけません。検認の手続きは、あくまで遺言書の原状を保全するための手続き(遺言が偽造や変造されないように、原状を保存しておくだけの手続き)であって、遺言書の有効・無効を判断する手続きではないからです。
 仮に、誤って正しい手続きをする前に開封してしまったとしても、ただちに遺言が無効になることはありません。開封してしまった後でも家庭裁判所にその旨を説明した上で、検認手続きを行うことが必要です。
 上記のとおり、検認と遺言の効力は全く無関係であり、検認を経ていても、遺言が有効だということにはなりませんし、逆に検認を経ていないからといって、遺言が無効となるわけでもありません。
 なお、検認の手続きを経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外で遺言書を開封した場合には、5万円以下の過料に処される可能性がありますので、検認の手続きはしっかり行いましょう。

(参考)民法
第1004条(遺言書の検認)
1 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
第1005条(過料)
 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

2 民法で定められた遺言要件を満たさず無効となる場合

 自筆証書遺言を作成するときに、必ず守るべき要件が以下のとおり、民法に定められています。作成した遺言書がこれらの要件を満たしていないと、せっかく書いた遺言書も無効となり、相続の手続に使えなくなってしまいます。

⑴ 遺言者本人が全文・日付・氏名を自筆で書き、押印すること

 遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を必ず遺言者本人が自書し、押印する必要があります。
 全文自筆というのはなかなかハードルが高く、特に高齢者にとってはかなり大変な作業となります。
 署名については、通常、戸籍上の氏名を記載することになりますが、遺言者と同一性を示すことができる場合には、ペンネームや芸名での署名も有効とされています。
 押印については、実印の押印は必須ではなく、認印でも可能ですが、本当に被相続人が作成したものなのか、といったトラブルになる可能性もあるので、実印で押印した方が良いでしょう。
 作成日付については、日付が特定できるように(「令和5年9月吉日」などは不可)、具体的な日付が特定できるように正確に記載する必要があります。これは、複数の遺言書がある場合、作成日の新旧によって有効性が判断されることもあるためです。

⑵ 自筆ではない財産目録に署名・押印すること

 財産目録は、自筆ではなく、パソコンを利用したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピー等を添付したりする方法で作成することができますが、その場合には、全てのページに署名・押印する必要があります。

⑶ 訂正の仕方を間違えないこと

 遺言書の訂正は民法で決められた方法があり、それ以外の方法では、訂正部分が無効となったり、遺言書自体が無効になる場合があります。
 書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印する必要があります。

⑷ 共同では書かないこと

 「遺言は、2人の者が同一の証書ですることができない」とされているので、夫婦が共同で遺言書を作成する場合にも、別々に作成する必要があります。

⑸ 遺言者に遺言能力があること

 遺言時に意思能力があることも「遺言者についての要件」(民法963条)になります。遺言を作成した際に、自己の行為の結果を判断できる正常な判断能力がなければ、遺言は無効になります。
 具体的には、認知症などによって意思能力がないと判断されるケースがありますので、認知症が疑われる場合など、遺言者が遺言をできる意思能力を有しているかどうか微妙なケースでは、遺言内容が複雑だと無効が疑われるので、公正証書遺言を選択するなどの慎重な判断が求められます。

(参考)民法
第968条(自筆証書遺言)
1 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず,自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については、自書することを要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。
第975条(共同遺言の禁止)
 遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。
第963条(遺言能力)
 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

3 2以外で無効になる場合

 上記以外にも遺言が無効になるケースとしては、以下のような場合があります。

⑴ 内容が不明確(不正確)

 遺言書では、「誰にどの財産を相続させるのか」という遺言者の遺志が正確に記載されている必要があります。例えば、「子供たちに預金を相続させる」といった内容では、どの子供なのか、どの銀行の預金なのかといったことが特定されていないため、争いがあった場合など、無効となってしまう恐れがあります。
記入例:長女 〇〇花子(昭和〇〇年〇月〇日生)に、次の預金を相続させる。
    〇〇銀行〇〇支店 普通 口座番号〇〇〇〇

⑵ 誰かに書かされた可能性がある

 遺言者が生前に言っていたこととまったく違う内容だったり、重度の認知症であったにもかかわらず遺言書が作成されているなど、遺言者本人の意思ではなく、脅迫などにより遺言者が自発的に書いたとは認められない遺言は,無効となる可能性があります。

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行政書士内藤正雄事務所