以前、「あなたは遺言を書くべき? 遺言書を作成しておいた方が良いケース」という記事を書きましたが、今回はそれの補足です。
遺言を書くべき場合は、法定相続分とは異なる相続割合での相続をさせる(又は遺贈をしたい)場合で、遺産分割協議ができない(ことが想定される)場合です。
例1 子がいない場合(夫が亡くなり、妻が遺された場合)
●夫の親又は兄弟姉妹(又はその代襲者)が存命の場合
子がいる場合、妻と子が相続するため、遺産分割協議により妻が自宅を100%取得したり、共有となっても妻の居住権(配偶者居住権)を認めたりすることが期待されますが、子がいない場合には、以下のようなことが起こりえます。
夫の親(又は兄弟姉妹)と妻の関係が希薄な場合、妻が100%の法定相続分を持つわけではないので、残された妻の生活に配慮した遺産分割協議が成立しないリスクが高く、その場合、自宅が共有財産となってしまいます。そうならないようにするためには、遺言で妻に100%相続させる必要があります。
遺言により妻に100%相続させても、兄弟姉妹の場合には遺留分がないので、遺留分侵害額請求のリスクはなく、妻に100%相続させることができます。
夫の親の場合には遺留分(6分の1)があるので、夫の親はそれを妻に請求できますが、遺産分割協議により法定相続分(3分の1)を請求されるよりもリスクは少なくなります。また、遺留分は「権利」ですので、実際に請求するかどうかは、相続人(夫の親)の判断しだいです。
例2 子がいない場合(夫が亡くなり、妻もいない場合)
●夫の親は亡くなっていて、兄弟姉妹(又はその代襲者)が存命の場合
このようなケースでは、法定相続人(兄弟姉妹とその代襲者)の人数が多く、その関係も希薄である場合が多くなります。被相続人と面識すらない法定相続人(笑う相続人)もいる場合もあります。
このようなケースでは、遺言書により、親しい兄弟姉妹やその代襲者にのみ相続させたり、法定相続人以外に遺贈することが可能です。この場合も遺留分侵害額請求のリスクはありません。
例3 生死不明の相続人がいる場合
遺言書がない場合、不動産の名義変更をはじめとした相続手続きには、原則として相続人全員の同意(遺産分割協議)が必要です。相続人に行方不明者などの生死不明者※が居る場合、不在者財産管理人を裁判所に選任してもらうなどの手続きが必要となります。
なお、不在者財産管理人は、不在者の不利益になる行為はできないため、法定相続分を下回る遺産分割協議に応ずることはできず、その分遺産が目減りします。
生死不明の相続人がいる場合、手続きの煩雑さを考えると、遺言書は必須といえます。
※ 死んでいるのが明らか(百数十歳を超えているなど)でも、手続きのミスなど、戸籍上死亡していないケースがあります。
例4 未成年又は成年被後見人である相続人がいる場合
夫が未成年の子と妻を遺して亡くなった場合、妻は子の法定代理人ですが、遺産分割協議との関係では、子を代理して分割協議に同意することはできないため、特別代理人の選任が必要になります。その理由は、通常、未成年者の代理人は親権者が務めますが、親と子が遺産を分け合う状況で親が代理人になると、親と子で利益が相反して子の権利が侵害される恐れがあるからです。
同様に、相続人中に、成年後見人と成年被後見人がいる場合も遺産分割行儀を行うには、特別代理人の選任が必要となります。
これらの場合も遺言を遺すことで、遺産分割協議をする必要がなくなり、特別代理人の選任といった面倒な手続きを回避することができます。
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