建設業の2024年問題 ―働き方改革と生産性向上のジレンマ-

 建設業の2024年問題について、国交省が取りまとめた「建設産業政策2017+10 ~若い人たちに明日の建設産業を語ろう~」(平成29年7月。建設産業政策会議)や「建設業行政をめぐる最近の話題」(令和5年9月。国土交通省不動産・建設経済局)を踏まえて、問題点とその解決の方向性を考えてみたいと思います。

1 建設業の2024年問題とは?

 建設業の2024年問題とは、猶予されていた時間外労働の上限規制が、2024年(令和6年)4月から適用された場合、今までのように従業員に長時間労働させることができなくなり、労働力が不足することから業務遂行が困難になる問題を言います。
 2019年4月、働き方改革関連法の制定・施行により、労働基準法が改正され、以下のとおり、時間外労働の上限規制がなされました。

⑴時間外労働の上限規制

 認められる時間外労働時間は、原則として、月45時間かつ年360時間
 例外として、臨時的な特別な事情があり、労使の合意がある場合の上限を設定したが、それを超えることは許されない。
【上限】
 時間外労働時間;年720時間(月平均60時間)
→ 年720時間の範囲内で、一時的に業務量が増加する場合にも上回ることのできない上限を設定。
 ア 2ヵ月・3ヵ月・4ヵ月・5ヵ月・6ヵ月の平均で、いずれも時間外労働と休日労働の合計が80時間以内
 イ 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
 ウ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年に6ヵ月
 この時間外労働の上限規制は、すでに2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)より施行されていますが、建設業や自動車の運転業務、医師などに対しては5年間の猶予期間が与えられていました。
 しかし、2024年4月からは上限規制適用の対象となり、建設業に対しては、災害の復旧や復興の事業を除き、上限規制が全て適用されます。
 従って、2024年4月以降は、上限規制の導入前までのように、労働者に長時間の時間外労働をさせることはできなくなります

⑵建設業就業者の減少(令和4年度)

 建設業就業者は、平成9年の約685万人をピークに、令和4年には約479万人となり、約3割減少しています。特に現場の技能者は、平成9年は約455万人だったものが、令和4年には約302万人と約34%減少しています。また、建設業就業者(令和4年度)は、55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%と高齢化が進行し、次世代への技術承継が大きな課題となっています。
 さらに、60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)を占めており、10年後にはその大半が引退することが見込まれることから、若手入職者の確保・育成が喫緊の課題となっている。

⑶建設業における働き方の現状(令和4年度)

 建設業について、年間の出勤日数は、全産業と比べて12日と多く、年間の総実労働時間は、全産業に比べて68時間長くなっています。また、4週8休(週休2日)の確保ができていない場合が多くなっています。

⑷国交省が目指す担い手確保のための働き方改革の推進と生産性向上

 建設業の魅力を高め、若年層や女性の入職を促進していく観点から、長時間労働の是正週休2日の確保、賃金水準の向上などの働き方改革」を推進することが求められています。
しかしながら、「働き方改革」に取り組むということは、時間外労働を減らし、週休2日や賃金を上げるということになるのでコストアップに繋がり、「働き方改革」に取り組む企業ほど価格競争で不利になりやすいと考えられています。
 そのため、「働き方改革」を実現するためには、同時に「生産性向上」を進める必要があるとされ、ICT等の活用や現場の技能労働者の技能の向上や人材・資機材の効率的な活用など、建設生産システム全体から個々の企業・個人の取組に至るまで、あらゆるフェーズにおける「生産性向上」を進め、建設産業のパフォーマンスを維持・向上していくことが重要であるとされています。
 「建設産業政策2017+10」が取りまとめられ、その後、6年立ちましたが、建設業の生産性向上は進んでいるのでしょうか?

⑸現状の取組

 「建設業行政をめぐる最近の話題」によると、国交省は、公共事業関係費(予算)を確保し、働き方改革等を推進し、処遇改善(賃上げ)に向けた取組や適正な請負代金を実現するための取組を行い、建設業を取り巻く課題を中央建設業審議会基本問題小委員会で審議し、生産性向上に取り組むなどしています。
 これらに取り組むことで、来年(令和6年)4月に2024年問題は解決しているのでしょうか?私には解決しているようには思えません。ではどうすればいいのでしょうか?

2 解決の方向性(三方良しの公共事業改革)

 建設業においては、「三方良しの公共事業改革」という取り組みがあり、数年前までは、国交省が中心となって、この取り組みを推進していた時期もあり、取り組んだ企業においては、働き方改革と生産性向上を両立し、「工期を短縮し、利益を増やし、税収を増やす」という、三方良し(住民よし、企業よし、行政よし)を実現していました。それは、現場作業の滞留の原因を探り、その原因を無くすことによって、現場の流れがきれいに流れるように現場をマネジメントするというものです。
 具体的には、国交省側はワンデーレスポンス(受注者からの協議に発注者は1日で返事をする取り組み)を導入し、建設企業においては、CCPM(クリティカルチェーンプロジェクトマネジメント)を実施することで、大幅な工期短縮と生産性向上を実現するものです。
 「建設産業政策2017+10」や「建設業行政をめぐる最近の話題」を読む限り、この取り組みについては全く触れられていないように思えます。
 この取り組みは、短期間で成果を出せますので、建設業の2024年問題で悩んでいる建設業の方は、是非、この取り組みを参考にして、問題の解決に挑戦してください
 詳細については、以下の動画や書籍・論文を見て頂いた方が良いかと思いますので、ここでは省略させて頂きます。

〇ゴールドラット金の知恵入門「2024年 働き方改革まったなしの建設業!残業を激減、みんなのボーナスが増えたのはなぜ?
〇論文「三方良しの公共事業改革(岸良裕司)」
〇書籍「三方良しの公共事業改革(岸良裕司)」

 建設業の2024年問題について相談したいという方は、お気軽に当事務所にお問い合わせください。

行政書士内藤正雄事務所