前回、「能登半島地震 公費解体が進まない理由を考察する」という記事を掲載しました。
今回は、申請者(被災者)の皆さんが、煩雑だと言われる公費解体の申請手続を円滑に進められるように、進まない理由からどのようなに対応したら良いのか、申請者の立場に立って考えてみました。
1 公費解体の手続きの流れ
公費解体に係る手続きの流れは以下のとおりです。
⑴罹災証明書の発行
公費解体の対象となる建物は、罹災証明書で「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」及び「半壊」と認定された被災家屋等です。「一部損壊」「準半壊」は対象にはなりません。
⑵申請書の作成・提出
市町が所有者の了解を得ることもなく、勝手に被災者の家屋等を解体することは法律上許されないので、被災家屋等を市町に公費解体してもらうためには、まずは被災者(被災家屋等の所有者)が、市町に公費解体の申請書及び必要書類を提出する必要があります。
必要書類が多岐にわたり、書類の過不足や内容の確認のため、原則として窓口での対面受付になりますが、避難先や遠方にお住まいの方で来庁することが困難であるなど特別の事情がある場合には、郵送による申請を可能としている市町もありますので、ご自分の市町のHP等で確認してください。なお、郵送の場合、封書が届かないなどのトラブルを避けるため、一般書留等の損害賠償等が付帯する方法による郵送を求めている場合もあります。
⑵書類審査等
市町が、提出された申請書及び提出書類の内容を審査します。
⑶現地調査(事前立会い)
申請者の立会いの下、市町の職員が、被災状況を調査(解体範囲の確認など)します。この時、どこを解体して欲しいとか、何を残して欲しいとか、取り出せなかった思い出の品を探して残して欲しいとか市町の職員とよく調整してください。
⑷決定通知
現地調査に基づき、市町は公費解体の対象となるかどうか審査・決定し、申請者に通知します。
⑸家財等の搬出・処分
解体の対象となる建物に家財等が大量に残置されることで、解体日数が長くなってしまうことが懸念されるため、できるだけ家財等を搬出・処分しておきます。家財等の搬出・処分が終わっていないと公費解体の申請ができないというわけではありません。また、必ず事前立会いがあるので、申請者の同意がないまま、解体工事が開始されることはありません。
⑹確認立会
市町・申請者・解体業者の三者が立会い、解体前に工事内容を再度確認します。
⑺解体・撤去
解体業者が安全基準に従って、解体・撤去作業を行います。
⑻完了立会(完了確認)
市町・申請者・解体業者の三者が立会い、工事の完了を確認します。
⑼完了
解体工事が完了し、手続きの後、市町は代金を解体業者に支払います。
2 公費解体が進まない理由とその解決策
⑴手続が煩雑で、書類の作成に時間がかかる
ア 申請に必要な書類
申請に必要な書類は、以下のとおりです。ある市町を参考に作成しましたが、市町によって書式や必要書類などが異なるので、具体的には市町のHP等で確認の上、書類を作成してください。また、必要書類が揃っているかを確認するためのチェックリストを準備している市町も多いので、活用してください。
申請書類は市町の窓口での入手やHPからのダウンロードのほか、二次避難されている方のために、石川県庁でも入手可能となっています(石川県HP「公費解体の概要説明窓口について」)。
なお、必要書類である各種証明書は、発行日から3か月以内のものが必要です。
【共通】
①申請書
申請者は原則、被災家屋等の所有者です。実印※を押印し、②の印鑑(登録)証明書を添付する必要があります。これは、印鑑証明書を添付することで、申請者が本人であることを証明するものです。
※ 市町によっては、所有者が本人確認書類を提示して自署(自分で署名すること)した申請書を提出する場合には、実印及び印鑑証明書の提出を省略できます。
②印鑑(登録)証明書
市役所や町役場の窓口(住民課など)で入手可能です。また、マイナンバーカードによるコンビニ交付も可能ですので、遠方にお住みの方はコンビニ交付を活用してください。
③本人確認書類
運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等の写し
④罹災証明書(半壊以上)の写し
⑤登記事項(建物)全部事項証明書(以下、「登記事項証明書」という。建物の所有者を証明するもの)
お近くの法務局で入手可能です。
市町によっては、法務局から市町が職権で登記情報の提供を受けて確認するため提出不要と明記していたり、そもそも必要書類として提出を求めていない場合もあるので、市町のHP等でよく確認してください。
ただし、登記上の所有者(被相続人)が亡くなった後も、その相続人が相続登記をしていない場合(所有者を変更していない場合)には、申請に必要な書類が異なってくるので、登記上の所有者が誰になっているか不明な方は、登記事項証明書を入手して確認しておいた方が申請の手戻りも無く、また市町の職員の書類審査の負担も減ります。
注意点としては、被災した建物が存在した場所に、過去に取り壊される等により「既に存在しない建物」の登記が、滅失登記されないまま残っている場合があります。この場合、間違って、この「既に存在しない建物」の登記事項証明書(これに記載された所有者は公費解体しようとしている建物の所有者ではない)を取得しないようにしてください。間違えないためには、以下の固定資産評価証明書等に記載された「家屋番号」を確認し、この家屋番号に対応する登記事項証明書を入手するようにしてください。
➡ 建物が未登記の場合、⑥の固定資産評価証明書(または固定資産公課証明書)だけでも可(市役所・町役場の窓口及び郵送で入手可能)
➡ 固定資産証明書に解体したい建物の記載がない場合、登記事項(土地)全部事項証明書(法務局で入手可能)。
登記事項(土地)全部事項証明書に記載された所有者と申請者(建物の所有者)が異なる場合は、なぜ違うのか証明する必要があると思うので、市町の相談窓口で相談してください。
⑥固定資産評価証明書または固定資産公課証明書
市役所や町役場の窓口(税務課など)及び郵送で入手可能です。これも⑤の登記事項証明書と同様に必要書類として提出を求めていない市町もあります(職権で入手できるため)。
⑦建物配置図
解体したい建物が分かるように、解体する建物の敷地内の配置及び概ねの形状を記載してください(手書き可)。解体する建物には「解体」、解体を希望しない建物には「残す」と明示します。
⑧被災状況(解体前の様子)が分かる写真
解体したい被災家屋等(門扉、堀、立木、擁壁等を含む)の写真(全体・近景写真及び被災家屋等の棟別の写真)を1棟ずつ撮影し、全棟分添付します。写真はパソコン等で印刷したものでも可能です。
【申請者が代理人である場合】
⑨代理権を証する委任状
所有者本人による申請手続きが困難な場合に、権限を代理人に委任するための書類です。委任者(申請者)の実印を押印(印鑑(登録)証明書を添付。②と同じもので可)
【被災家屋等の所有者が法人である場合】
⑩商業・法人登記事項証明書(履歴全部事項証明書)(法人の場合)
【被災家屋等が共有持分である場合】
⑪共有者全員の同意書
登記事項証明書に記載された所有者が複数の共有者である場合、共有者全員の同意書が必要になります。同意書には、共有者全員の実印を押印し、共有者全員の印鑑(登録)証明書を添付する必要があります。
【被災家屋等が相続未登記である場合】
<共通>
⑫相続関係を証する書類(以下のいずれか)
・法定相続情報一覧図※(既にある場合)
※ 相続手続等で用いられるもので、相続人が法務局に被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍を提出(以下と同じもの)し、法務局が内容を確認した上で、登記官が、相続人が作成した法定相続情報一覧図を認証したもの。
・被相続人(登記事項証明書に記載の所有者)の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の現在の戸籍及び相続関係図
市町の多くは、戸籍等は職権で取り寄せて確認するため、これら資料の提出が不要となっている場合があるので、市町のHP等で確認してください。
<相続人が決まっている場合>
⑬相続を証する書類(遺産分割協議書等)
被災家屋等の相続登記はされていないが、申請者が相続等によって被災建物を取得していたことがわかる書類(遺産分割協議書や公正証書遺言書など)の写し。
<相続人が決まっていない場合>
⑭相続人全員の同意書
登記事項証明書に記載された所有者が亡くなった後、相続手続をしていない場合、相続人全員の同意書が必要です。同意書には、相続人全員の実印を押印し、相続人全員の印鑑(登録)証明書を添付する必要があります。
【被災家屋等に権利関係がある場合】
⑮権利設定者全員の同意書
被災家屋等に金融機関等による抵当権等が設定されている場合、権利設定者全員の同意書(実印を押印し、権利設定者全員の印鑑(登録)証明書を添付)が必要になります。
【借家の場合】
⑯居住者全員の同意書
現地調査の結果、借家人の同意が必要な場合、居住者全員の同意書(押印は必要であるが、実印と印鑑(登録)証明書は不要)が必要になります。
⑰隣接地権者の同意書
現地調査の結果、解体作業に隣接地への立入り等が必要な場合、隣接地権者全員の同意書(押印は必要であるが、実印と印鑑(登録)証明書は不要)が必要になります。
⑵ 申請書の作成が進まない理由とその解決策
①書類の書き方や添付書類の入手方法が分からない
解決策:説明会や相談窓口を活用する
公費解体の説明会に参加するとともに、石川県や市町に設置された相談窓口を有効に活用してください。
・石川県の相談窓口
・各市町の公費解体のHP
②遠方に住んでいて手続ができない
解決策:手続を理解し、申請書を作成し、必要書類を集める
市町のHPをよく読んで、申請書等を作成し、必要書類は郵送やコンビニ交付を活用して収集してください。そして、完成した書類は、郵送(一般書留等)で市町の窓口に送りましょう。
①②について、時間が無いという方は、公費解体に詳しい行政書士に書類の作成を依頼してください。必要書類の作成だけではなく、今のあなたに必要な相談にも乗ってくれると思います。
③共有者や相続人の同意が得られない
解決策1:司法書士会の相談窓口に相談する
石川県司法書士会等が設置している相談窓口において、公費解体の申請を行う際の家屋の相続、解体に係る同意取得等に関する相談を行うことができます(石川県HP)。
なお、相続や同意取得等に関する相談は、争いの仲裁はできませんが、行政書士にも相談することは可能です。
解決策2:宣誓書方式(所有者が責任を負う旨の宣誓書を提出)により申請手続を簡素化する
石川県から各市町に対して、環境省及び法務局の事務連絡(令和6年5月28日)が周知さましたが、共有者や相続人の全員から同意を得ることが困難な場合、共有者等に対する意向確認の状況(連絡をしたが応答がない、所在不明など)や家屋の状況(建物として価値が無い、建物を取り壊さないと周囲に損害を与えるおそれがあるなど)等を総合的に考慮してやむを得ないと考えられ、申請者が公費解体・撤去の申請をすることに対して共有者等から異議が出る可能性が低いと考えられる場合には、所有権等に関する紛争が発生しても申請者の責任において解決する旨の書面(宣誓書)の提出を受けることにより、解体・撤去を行うことが可能とされています。
但し、この判断は市町の判断になりますので、共有者等の全員から同意を得ることがどうしても困難という方は、市町の相談窓口に行って、意向確認の状況をよく説明し相談して下さい。単に意向を確認するのが面倒だという理由では認めてくれません。なお、共有者等から異議が出ている場合の取扱いは、難しい判断になるのではないかと思われます。
解決策3:建物性が失われていることを証明し、申請手続を簡素化する
㋐建物性が失われていること
建物が倒壊、焼失又は流出等により滅失し、建物性(土地に定着し、屋根と周壁を有し、用途に供する状態であること)が失われた場合、その建物についての所有権等は消滅します。
㋐-1 滅失登記されていること
建物性が認められない倒壊家屋等について、法務局が職権で滅失登記(職権滅失登記)を行うことにより、市町は所有者の一部(共有者等全員の同意は不要)からの申請だけで、公費解体を進めることができるようになります。
この職権滅失登記による申請手続の簡素化は、輪島市については朝市地区で既に適用され、珠洲市については蛸島地区と宝立町鵜飼地区・朝日野地区で手続が進められているとの報道がありました。これらの地区の申請者は、申請手続が簡素化(同意書が必要なくなる)されることになります。
㋐-2 滅失登記されていないが、建物性が失われていること
家屋等の所有者等から公費解体の申請を受け付け、建物性が失われていると考える理由(㋐建物全体が倒壊又は流出している、㋑建物が火災により全焼している、㋒複数階建ての建物の下層階部分が圧潰している、㋓建物の壁がなくなり柱だけになっている)により、建物性が失われていると判断される場合、所有者全員の同意がなくても、公費解体が可能となります。珠洲市のHPでは、申請必要書類の簡素化として、「申請に係る相続者等の同意書が不要になります。」と記載されています(珠洲市HP)。
但し、宣誓書方式と同様に、この判断は市町の判断になりますので、共有者等の全員から同意を得ることがどうしても困難という方は、市町の相談窓口に行って、意向確認の状況をよく説明し相談して下さい。特に、共有者等から異議が出ている場合も、この方法によれば、所有者の一部(共有者等全員の同意は不要)からの申請だけで、公費解体を進めることができるようになると思われます(この点は市町の担当者によく確認してください)。
⑶ 公費解体される家屋から家財等の搬出・処分ができない
家財等が大量に建物内に残置されることで、分別作業が必要になり、解体日数が長くなることが懸念されるため、公費解体を円滑に進める上では、家財等を搬出・処分しておくことが重要です。
解決策:災害ボランティアと家財搬出・運搬・保管サービス事業者の活用
石川県生活環境部資源循環推進課から市町解体担当課に周知されている事務連絡では、「建物の倒壊等の危険のない範囲で、ボランティアと連携していただくなどにより、環境省の指針に従い、できるだけ家財等を取り出しておくことが、迅速な解体につながります。また、家財の取り出しは公費解体の申請後でも可能です。」と記述され、また、石川県HPにも、解体前に大きな家財の一時保管のため、家財搬出・運搬・保管サービス事業者(有償)の紹介をしています。
上記のとおり、申請者は、ボランティアや家財搬出・運搬・保管サービス事業者を活用して、公費解体前の家財の搬出を進めることが重要になりますが、家財の搬出経路が安全に確保されていることが前提であるため、全壊の場合にはこれらを活用できないのでは?と思われます。全壊の場合、家財等が建物内に残置されたまま公費解体となるため、分別作業が必要となり、貴重品や思い出の品など申請者にとって取り出したいものを解体工事中に回収する必要もあり、この場合、解体日数は大幅に長くなることが予想されます。例えば、能登町の場合、HPに「り災証明書で「全壊」と判定された場合などで、家屋内への立入や搬出作業に危険が及ぶ可能性が高い場合は、原則として家財道具等は災害廃棄物として町が処分します。※工事中に選別できたアルバム等のいわゆる“思い出の品”は、できる限りお返しします。」と書かれています。
従って、全壊で公費解体前に家財等を搬出・撤去することが難しいと考えられる場合には、市町の相談窓口(遅くとも事前立会い)でよく相談する必要があると思います。
また、全壊以外の場合、災害ボランティアや家財搬出・運搬・保管サービス事業者を活用して、公費解体前に家財等を搬出・撤去すれば、公費解体の日数を短縮することができ、能登の一日も早い復旧・復興に寄与することができますので、計画的に家財等の搬出・処分を進めてください。
⑷ 遠方のため、立会できない
解決策:立会の簡素化(具体例は不明)
市町のHPを見る限り、事前立会い、確認立会い及び完了立会いの3回の立会いとなっている市町と事前立会いと完了立会いの2回の立会いとなっている市町があるようです。また、本人の立会いが困難な場合には、代理人でも可能としている市町もありますが、個人の財産処分に関する重要なことであり、各市町ともに必ず立会ってほしいとお願いしています。建物の安全管理は所有者としての義務でもあるので、必ず立会うようにして下さい。
以上、公費解体が進まない理由とその解決策をまとめました。手続が煩雑だと言われる公費解体ですが、共有者や相続人と争いがあって異議が出ている難しい場合を除いては、ひとつひとつ手続を進めることで、公費解体を完了させることはできますので、市町のHPにある説明をよく読んで、分からないところは市町の相談窓口でよく相談するなりして、必要書類を完成させて公費解体の申請をしてください。
「公費解体」の手続きについて、不明な点等がございましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。
「行政書士内藤正雄事務所」