能登半島地震 公費解体を加速化する(その2) -ボトルネックを徹底活用する-

 令和6年8月5日に能登創造的復興タスクフォース(第3回)が開催され、6市町と石川県、国が公費解体の加速化について議論されました。前回、「能登半島地震 公費解体を加速化する -ボトルネックは何か?-」というブログで、公費解体を加速化するためには、ボトルネック(制約)に集中するための管理者のマネジメントが重要であることを述べました。今回は、公表されているタスクフォースの資料を踏まえ、管理者のマネジメントが適切になされているのかどうか、適切になされていないとしたら、どうすれば良いのか?を考えたいと思います。
 なお、現場の実態を把握しているものではなく、あくまでも公表されている資料からの推測であることをご理解ください。

1 被災建物の公費解体の状況

 能登半島地震の復旧・復興には、被災者の経済的負担を軽減するとともに、迅速な復旧と2次災害防止のため、公費解体を速やかに完了させることが不可欠とされています。しかしながら、半年以上経った今でも多くの被災建物が被災時の状態のまま残っていることがしばしばニュース等で問題になっています。
 石川県としては、公費解体を令和7年10月までに完了させる目標を立てており、令和6年8月12日現在、被災建物の公費解体の状況は、申請26,003棟に対して着手7,716棟(29.7%)、完了2,594棟(10.0%となっています(石川県HP)。

 特に、6月30日から8月12日までの着手棟数、完了棟数、公費解体、自費解体の推移(以下のグラフ)を見た場合、着手棟数は急激に増えているのに対して、完了棟数(公費解体、自費解体を含む)は、それほど増えていないことが分かります。ボトルネックとされていた補償コンサルタントや解体班数を増やした結果、着手棟数は増加しましたが、まだ解体作業中のため、完了までは至っていないということなのでしょうか?
 前回、マルチタスクはリードタイムを大幅に長くする要因になると述べましたが、この点に留意して考察したいと思います。

2 公費解体を加速化するための施策

 能登創造的復興タスクフォース(第3回)の資料に、「公費解体の加速化について(環境省)」という資料があります。以下、目次に従って、その内容を確認したいと思います。

⑴公費解体における課題の共有、取組事例の横展開

■毎週開催の県全体工程会議において、県、6市町、補償コンサルタント、構造物解体協会、産業資源循環協会等の関係者間で、公費解体における各市町での課題の共有や取組事例の横展開を実施する。
■これまで各市町が実施してきた公費解体の課題と取組状況(下図及び下表)について、「対応チェックリスト」として市町が活用できるように、公費解体の進捗状況を踏まえて今後随時見直す。

 これらに取組むことで、石川県、環境省で連携し、6市町間での課題の共有や取組事例の横展開を図ることで、公費解体の円滑化・加速化を推進するとしています。

     課 題            対 応(取組状況)
共有者全員の同意取得・建物の滅失登記、所有権不明建物管理制度
・宣誓書方式の活用
建物性が失われた倒壊家屋等・法務局の登記官による職権滅失登記の活用(面的な解体撤去)
三者立会の円滑化・効率化・補償コンサルタントが地区ごとに担当分担
解体工事体制の強化・県・6市町の工程管理会議等で工事工程を徹底管理(解体業者の活動班数や完了棟数等の確認・見える化)
・県外・北陸ブロック外も含めた業者の確保・活用
宿泊地の確保・民間施設等の活用、仮設の宿泊施設の設置
自費解体の促進・自費解体における支援対象は公費解体と同じ
・解体廃棄物の円滑な運搬・処理(情報提供、積替え保管場所の設置)
仮置場の追加確保・追加の仮置場の増設
広域処理の推進・陸上での広域輸送に加え、海上輸送を実施
・県外の広域処理を随時進める
支払いの円滑化・解体業者、廃棄物処理業者に対して、遅滞のない支払いを実施
10応援体制・被災市町での臨時雇用等、他自治体からの支援

【考察】
 この部分が、公費解体を加速化するための管理者のマネジメントであると思われるので、この取組の成否が公費解体を目標どおりに完了させられるかどうかの重要な要素になります。つまり、前回のブログで書いた通り、管理者のマネジメントがボトルネック(制約)の改善に集中したもので、全体最適なものになっていれば、公費解体の流れが良くなってスムーズに進むし(その結果、仕掛りが減り、完了棟数が増える)、一方、目の前の望ましくない現象の全てを改善すべきとして、あれもこれも対応してしまう部分最適なものになってしまえば、公費解体の流れが悪くなり(その結果、仕掛りが増えて、思うように完了棟数が増えない)という状況になる可能性があります。そうならないためにも、管理者は、全体最適のためのマネジメントを実行することが不可欠となってきます(詳細は4を参照)。

⑵公費解体における申請プロセスの具体化、宣誓書方式の活用

■公費解体における申請プロセスを具体化することにより、申請・審査事務の円滑化を図るとともに、宣誓書方式の活用にもつなげ、公費解体の更なる加速化を推進。
共有者等の意向を確認することが困難な場合、いわゆる宣誓書方式の活用により申請可能。

【考察】
 以前、「令和6年能登半島地震による公費解体・撤去の申請手続の概要」で解説したとおり、宣誓書方式を活用することで、煩雑な申請手続を簡素化することができますが、今求められている完了棟数を増やす効果は余り無いように思えます。
 また、公費解体の申請手続は簡素化され、仮に公費解体できたとしても、共有者等の同意を得られたわけではないので、土地が共有となっている場合には相続の問題は未解決のまま残ります。そして、それが復旧・復興の支障になるようであれば(例えば、なりわい再建支援補助金を申請しようと思っても、共有者等の同意が必要になります)、問題を先送りするのではなく、時間はかかっても共有者等の問題を解決しておくことが望ましいといえます。
 また、市町にしても、所有者が不明(曖昧)なままでは、所有者不明土地問題は解決できず、市町の管理運営にも支障があると思うので、余程の理由が無い限り、宣誓書方式が認められることは無いのではないかと思います。

⑶公費解体の加速化に向けた宿泊施設の確保

■解体業者の大幅拡充のため、宿泊施設の確保も並行して行うことが必要。
■民間宿泊施設の活用、宿泊情報の連携、既存家屋の改修による活用等、県や国による宿泊施設等の情報提供。

【考察】
 宿泊施設の確保は、公費解体に従事する者の生産性に大きく影響し、工期を長くする原因になるので、優先順位を踏まえて、この問題に対応してくださいとしか言いようがないのではないかと思います。

⑷自費解体(費用償還)の促進

■ 自費解体に関する各種課題に対して、「自費解体(費用償還)円滑ガイド(仮称)」を環境省と石川県で連携して作成し、市町へ周知。
■ 市町から費用償還に係る個別の相談については、市町の事務支援体制の確保を図りつつ、円滑化に向け環境省と石川県が連携し対応。

【考察】
 前回のブログにも書いたとおり、自費解体も公費解体と目的は同じなので、公費解体を補うために、自費解体も進めて欲しいということだと思いますが、どちらもリソース(解体業者、解体廃棄物処理業者など)は同じだと思うので、リソースの競合(取り合い)が起こって、却って解体工事(公費、自費)の流れを悪くしないような仕組みを構築する必要があります。この点、リソースの競合が解消されなければ、期待された効果は生まれないのではないかと思います。

3 公費解体・災害廃棄物全体の円滑な実施

 2⑴に関連して、「4.公費解体・災害廃棄物全体の円滑な実施」という資料(以下)があり、「工程管理会議等を通じた進捗管理の徹底・情報共有の推進」として、次のことが記述されています。
◆ 石川県・6市町毎の工程管理会議を通じた「縦横連携」(※)の推進により、各工程・工程間でのボトルネックの把握・改善を行い、進捗管理を徹底
◆ 事業全体の進捗や取組事例などの情報共有を推進。
※ 縦連携:申請審査・解体・仮置場・処理施設の各工程・工程間でのボトルネックの把握・改善
  横連携:各市町における優良事例の共有と他市町への水平展開

【考察】
 図を見ると、市町工程管理会議が縦連携のためのマネジメントを行い、県全体工程管理会議が横連携のマネジメントを行っていることが分かります。具体的には、①審査・発注、②解体・撤去、③仮置場、④処理施設までの流れが澱みなく流れるように、県や市町のマネジメントコンサルタントが全体をマネジメントするということだと思うので、上手く行くかどうかは、このマネジメントコンサルタントが個別最適ではなく、全体最適でマネジメントできるかどうかにかかっています。
 全体最適のマネジメントについては、前回のブログに詳しく記載していますので、よろしければ参照してください。

4 解体・撤去の流れを良くする

 公費解体を目標である令和7年10月までに完了させるためには、②解体・撤去のインプット(発注)からアウトプット(搬出)までの流れを良くするということです。そのためには、①審査・発注を適切に実行することにより、インプット(発注)量を確保し、アウトプット(搬出)に対応できる十分な処理能力を持った③仮置場及び④処理施設を整備することが不可欠です。
 資料では、市町工程管理会議が縦連携を担い、申請審査・解体・仮置場・処理施設の各工程・工程間でのボトルネックの把握・改善を行うこととしています。この点をもう少し具体的に考えてみたいと思います。

⑴ アウトプット(搬出)に余裕を持たせる

 日々発生する解体廃棄物の排出量を予測し、搬入(アウトプット)される解体廃棄物を置くことができる十分な余裕を持った③仮置場を設置しておく必要があります(スペースは搬出・処理施設の能力にも依存)。

⑵ インプット(発注)をコントロールする

 インプット(発注)する量もコントロールする必要があります。解体業者は解体工事の発注(契約手続)の段階から参画しますが、工事を着手する前に、三者立会(所有者・解体業者・補償コンサルタントの三者で現地立会)があります。仮に、この契約手続や三者立会に解体業者の希少リソースが割かれていて、解体工事の流れを停滞させているとしたら、生産性は低下して、工期も長くなります。例えば、三者立会で所有者の要望(残したい家財等の処置など)を確認していると思いますが、三者立会から実際の着工までの間に期間が生じた場合、所有者の要望事項を調査票等で再度確認するのに時間がかかるなどの手戻りが生じたり、失念して所有者の要望が叶えられないなどの不都合(残したい家財等が処分される)が生じたりしてはいないのでしょうか?
 最も生産性が高く工期が短くなるのは、三者立会の後、解体業者が直ぐに工事に着手でき、工事完了まで工事が停滞することもなく、流れるように作業に集中できた場合です。管理者としては、できるだけそうなるようにマネジメントする必要があります。

⑶ マルチタスクを無くす

 8月12日現在、5,122棟(着手棟数7,716-完了棟数2,594)が仕掛り(解体中)であるということになり、現在稼働中の解体班を仮に500班と多く見積もっても、1班当たり約10棟の工事量(仕掛り)を抱えていることになります。
 前回述べたとおり、マルチタスクはリードタイムを大幅に長くする原因になります。仮に、解体業者がバッドマルチタスクになっているとしたら、管理者はそうならないようなマネジメントをする必要があります。

ア マルチタスクになってしまう理由とその弊害(一般論)

 以下に、「集中連載TOCを考える③ 保守期間の短縮 機体とエンジンのオーバーホールに制約理論(TOC)を適用する」(月刊JADI2017年12月)から一部修正の上、抜粋します。
 『納期遅れが増大するとともに、約束の期日を守らなければならないというプレッシャーが、できるだけ早く仕事を始めなければいけないというプレッシャーを引き起こす。
 より多くのタスク(仕事)をできるだけ早く始めるということは、仕掛り中の仕事(WIP:work-in-process)を増加させ、希少なリソースの取り合いを増大させることになる。これが、重度のマルチタスク(優先順位が変わるためにあるタスクから別のタスクへ行ったり来たりすること)やリソースを薄く広く配置すること(各タスクは必要よりも少ないリソースしか割り当てられない)につながってくる。サポート部門(計画、管理など)では多くのWIPをサポートすることは不可能となり、徐々に後手に回り、より遅れがひどくなる。マネジャー(管理者)は火消し作業に飲み込まれ、遅れを取り戻そうとして優先順位を変え続けることになる。
 こうした状況を改善するために、効率性やリソース活用度などの指標を導入しても役に立たない。なぜなら、指標を導入することが、よりたくさんのタスクを始めることを促してしまい、人々を忙しくさせてしまうことになるからである。
 会社の中には、各タスクの開始日と終了日を厳密に決めた緻密な計画を作り、全員にこれを厳守させようとしてきたところもある。残念ながら、(多くの開始日のある)緻密な計画は、決められた日にタスクを開始するというプレッシャーと、それぞれのタスクの進捗を示すプレッシャーをより引き起こすことになる。
 これらの行動は状況を改善するどころか、状況をさらに悪化させる悪循環(下図)を引き起こしてしまう。結果として、全員が忙しく働いているにもかかわらず、納期が長くなり、スループットと生産性が低下し、コストが上昇、さらんは、現場の人々に、火消し作業に追われる高いストレスの中で働く状況を引き起こしてしまう。』 

イ 悪循環を好循環に変える(一般論)

 上記の悪循環を好循環に変えるにはどうしたら良いでしょうか?(下図参照)
 マルチタスクを無くす(少ないタスク)と、リソースが集中され、優先順位も明確になります。その結果、仕事が早く終わります。マルチタスクを無くすためには、仕掛りを減らす必要があります。仕掛りを減らすためには、早く始めるという行動を止め、優先順位に従い準備出来たもの(フルキット)から開始するようにします(準備ができないまま開始すると中途半端な状態の仕掛りが増える)、ただ、準備できたからといって、どんどん仕事を開始するとマルチタスクになるので、マルチタスクにならないように、仕掛りの数を適度にコントロール(WIP管理)する必要があります。仕掛りを管理するとは、例えば、仕掛りの数を決め、仕掛りが一つ減ったら、仕事を一つ開始するなどです。
 つまり、仕掛りを管理して、仕事の優先順位に基づいて、フルキットが準備できたものから作業を開始することにより、仕掛りが減り、マルチタスクが無くなり、リソースが集中でき、仕事が早くなります。また、集中して仕事ができるので、ミスや手戻りが無くなって、不良が減り、品質も向上します。

 
 具体的に実行し成果を出すためには、専門家の支援が必要になりますが、実際に様々な組織で大きな成果を出しているものなので、関心がある方は、お気軽に当事務所にご相談ください。
行政書士内藤正雄事務所