令和6年8月26日に石川県と環境省が、「公費解体加速化プラン ~公費解体見込み棟数の見直しと対応~」(石川県HP)を公表(記者会見資料)しました。これまで「能登半島地震 公費解体を加速化する -ボトルネックは何か?」「能登半島地震 公費解体を加速化する(その2) -ボトルネックを徹底活用する-」というブログで、公費解体を加速化するためには、ボトルネック(制約)に集中するための管理者のマネジメントが重要であり、管理者のマネジメントが適切になされているかどうか、適切になされていないとしたら、どうすれば良いのか?を考えました。
今回は、公表されている資料等を踏まえ、管理者のマネジメントが適切になされているのかという点について補足したいと思います。
なお、現場の実態を正確に把握しているわけではなく、あくまでも公表されている資料等からの推測であることをご理解ください。
0 公費解体見込棟数及び災害廃棄物発生量の見直し
実行計画(R6.2)では、解体対象を「22,499棟」としていましたが、解体棟数を見直した結果、解体見込棟数は「32,410棟(+9,911棟)」と大幅に増加しています。これに比例して、災害廃棄物発生推計量も「244万t」から「322万t(+88万t)」と増加しています。
解体見込棟数は増えましたが、解体完了は引き続き来年10月を目標とし、さらに一日でも早い完了を目指すとしています。また、中間目標として、令和6年12月末までに1万2千棟の解体完了を目標としています。
1 解体完了目標等から逆算したスケジュール管理
月ごとの解体計画は、下図のとおり。令和7年10月末の公費解体完了から逆算し、月ごとの解体計画を設定している。ピーク時(令和6年11月)に1,120班体制で、一カ月あたり最大2,400棟数を解体、12月から3月の冬期の降雪による影響を勘案した計画になっている。
「事業進捗の見える化」として、毎月、市町ごとの解体完了棟数などの進捗状況を公表するとしているので、計画と実績の割合を見れば、市町ごとの管理者のマネジメントの良し悪しが分かることになる。進捗の遅れている市町があった場合、進捗が進んでいる市町の取組事例を横展開することでボトルネックを改善することを考えているものと思われる。
2 解体工事体制の充実・強化
ア 申請受付・現地調査・工事発注等の円滑化
・管理業務及び現場調査を行う専門コンサルタントの増員
解体業者の宿泊先は確保済(ウを参照)とのことですが、増員されるコンサルタントの宿泊先は大丈夫なのでしょうか?
・行政書士等の専門家の活用を推進
自費解体を加速化するためには、お年寄りなどの申請手続を支援することが必要(馳知事の記者会見での発言より)
イ 解体業者の大幅拡充
解体ピーク時(R6.11からR7.2)に1,120班が必要であり、全国の解体業者の協力を得て、1,144の解体班を確保済
(内訳)石川県695、愛知県87、福井県62、岐阜県48、京都府29など
ウ 県解体協会の体制強化
・工程管理会議を活用し、円滑な作業発注、活動状況の把握・見える化
・宿泊先の確保:民宿・借家・コンテナハウス等により必要数3,400人分を確保済
エ 自費解体の活用の円滑化
・「公費解体が原則」の方針を「公費解体と自費解体をクルマの両輪で進める」方針に変更しています。そのため、自費解体ガイド(石川県HP)として、「自費解体(解体費用の立替えと払戻し)の手引き」(石川県HP)と「石川県お役立ち情報」(石川県HP)を策定しています。
・解体廃棄物の処理先について情報提供
・積替え保管施設や処分施設の設置の働きかけ
【考察】
前回、自費解体も公費解体もリソース(解体業者、解体廃棄物処理業者など)は同じだと思うので、リソースの競合(取り合い)が起こって、却って解体工事(公費、自費)の流れを悪くしないような仕組みを構築する必要がありますと書きました。この点について、記者からの質問に対して、石川県の回答は、解体班は解体工事業登録業者から選定しているが、建設業許可を取得している業者も解体工事を行えること、また、全国にはまだ解体工事登録業者は存在していることから、解体班以外のリソースも存在しているとのことでした。
建設業界の下請け構造を踏まえると、解体業者も下請業者を使っていると思うので、もしかしたら、そのレベルではリソースが競合しているのかもしれませんが、私はその実態を知らないので、確たることは分かりません。
自費解体が馳知事の思惑通り(全体の約3割)に進めば良いですが、進まない場合にはその原因を探って、それを改善する必要があります。
3 災害廃棄物処理体制の拡充
ア 仮置場の追加確保
現在運用中の仮置場は16箇所ですが、解体見込棟数の増加に見合った仮置場の追加確保が必要であるとして、6箇所で仮置場を整備中又は設置検討中
イ 広域処理の更なる拡充
・海上輸送の活用(宇出津港、飯田港からの搬出)
・県内市町等のごみ処理施設の活用
仮置場(市町)→大型車両→積替え場所(金沢市)→小型車両→市町ごみ処理施設
・県外の自治体ごみ処理施設及び民間処理施設の活用
受入予定:中部ブロック4県13市町村等
近畿ブロック 大阪広域環境施設組合
関東ブロック 東京都、横浜市、川崎市
4 公費解体・災害廃棄物全体の円滑な実施(前回のタスクフォースの資料とほぼ同じ)
前回も述べたとおり、「工程管理会議等を通じた進捗管理の徹底・情報共有の推進」として、次のことが記述されています。
◆ 石川県・6市町毎の工程管理会議を通じた「縦横連携」(※)の推進により、各工程・工程間でのボトルネックの把握・改善を行い、進捗管理を徹底。
◆ チェックリストを活用し、事業全体の進捗や取組事例などの情報共有を推進
※ 縦連携:申請審査・解体・仮置場・処理施設の各工程・工程間でのボトルネックの把握・改善
横連携:各市町における優良事例の共有と他市町への水平展開
【考察(前回のものを修正)】
図を見ると、市町工程管理会議が縦連携のためのマネジメントを行い、県全体工程管理会議が横連携のマネジメントを行おうとしていることが分かります。具体的には、①審査・発注、②解体・撤去、③仮置場、④処理施設までの流れが澱みなく流れるように、県や市町のマネジメントコンサルタントが全体をマネジメントするということだと思うので、上手く行くかどうかは、このマネジメントコンサルタントが個別最適ではなく、全体最適でマネジメントできるかどうかにかかっています。
今回、月ごとの解体計画が策定されたので、市町や県の工程管理会議では、管理者は計画された解体棟数を達成するようにマネジメントを求められていると言えます。実際に、上手くマネジメントされているかどうかは部外者の私には分かりませんが、公表される実績が計画に対して遅れが生じているようでしたら、マネジメントが部分最適になっていて、全体最適のマネジメントがなされていないということだと思って間違いありません。今のところは行政を信じて、計画通りに進むことを願いながら、管理者の手腕を見守っていきましょう!
なお、全体最適のマネジメントについては、ブログ「能登半島地震 公費解体を加速化する -ボトルネックは何か?」「能登半島地震 公費解体を加速化する(その2) -ボトルネックを徹底活用する-」に記載していますので、よろしければ参照してください。
具体的に実行し成果を出すためには、全体最適のマネジメントに詳しい専門家の支援が必要になりますが、実際に様々な組織の課題に対して大きな成果を出しているマネジメントなので、関心がある方は、お気軽に当事務所にご相談ください。
「行政書士内藤正雄事務所」