令和6年能登半島地震による公費解体・撤去の申請手続の概要

1 背景

 令和6年1月1日に発生した能登半島地震により、多くの家屋等が損壊しました。これに対し、公費解体・撤去の申請に係る手続が各市町村で順次行われているところですが、申請手続等の円滑な実施のため、環境省・法務省より、事務連絡「令和6年能登半島地震によって損壊した家屋等に係る公費解体・撤去に係る申請手続等の円滑な実施について(周知)」(令和6年5月28日)が発出されましたので、その概要について、以下に解説します。
 なお、手続きの細部については各市町で異なる点がありますので、具体的な手続きについては、各市町に確認する必要があります(石川県HPに、各市町HPのリンクが貼られています)。
 ニュース等では、『輪島市の朝市通りでも法務局の職権により、エリア内の全264棟が機能を失い「滅失」したとする手続きが完了。所有者全員の同意なしに、災害廃棄物として解体できるようになった。』と記載(公明党ニュース)されていますが、6月18日現在、上記事務連絡に従い、明確に申請手続を簡素化するとHPで確認できる市町は珠洲市のみ珠洲市HP)です。従って、具体的に申請手続が簡素化できるかどうかは、直接、市町の担当部署に確認する必要がありそうです。
 なお、7月7日現在、確認できたところでは、輪島市については、朝市エリアの住民等に対して説明会が開かれ、申請手続きが簡素化されています。また、珠洲市については、蛸島地区と宝立町鵜飼地区・朝日野地区「滅失登記」の手続きを進めるとの報道(7月5日)がありました。

2 手続の原則

 損壊家屋等の公費解体・撤去は、家屋等の所有者の申請の上で行うことが原則です。
 中には、不動産登記簿上の所有者が既に死亡し、相続登記がされていない場合や、家屋が複数人の共有である場合など、所有者の確認が難しいことがあります。また、共有者が判明しても解体・撤去に係る関係者全員から同意書を取得することが困難な場合もあります。

3 円滑化・迅速化の方策

 このような状況において、手続きを円滑化・迅速化する方策として、以下を活用することができます。

 滅失登記の活用

 建物が滅失した場合は、不動産登記法に基づき滅失登記を行います。滅失登記が行われると、所有者全員からの同意書の提出が不要となり、解体手続きが簡素化されます。

 所有者不明建物管理制度の活用

 建物の共有者が特定できない場合、「所有者不明建物管理制度」を活用し、裁判所が選任した管理人から解体同意を得ることにより、共有者全員からの同意が不要となります。

 宣誓書方式の活用

 共有者の同意を得ることができない場合、所有者が責任を負う旨の宣誓書を提出することにより、公費解体を進めることが可能です。これにより、手続きの迅速化が図られます。
 
 
 本手続きの円滑化は、令和6年能登半島地震による被災者の負担軽減と早期の復興に寄与します。各市町村はこの指針に基づき、所有者確認、意向確認、滅失登記、宣誓書方式などを適切に行い、公費解体・撤去の手続きを進めることが求められます。また、県課税担当部局と市町村廃棄物主管部が連携し、情報共有を図ることで、より効果的な対応が期待されます。

4 公費解体・撤去の具体的手順

⑴ 申請と同意の取得

① 単独所有
 所有者の同意があれば解体可能です。
② 共有所有
 共有者全員の同意が必要です。ただし、倒壊家屋など建物性が失われた場合全員の同意が不要となります。

⑵ 倒壊家屋等への対応(建物性が失われている場合)

① 建物性が認められないこと
 建物が倒壊、焼失又は流出等により滅失し、建物性(土地に定着し、屋根と周壁を有し、用途に供する状態であること)が失われた場合、その建物(「倒壊家屋等」という。)についての所有権等は消滅します。
②-1 滅失登記されていること
 建物性が認められない倒壊家屋等について、法務局が職権で滅失登記職権滅失登記)を行うことにより、市町村は所有者の一部(共有者全員の同意は不要)からの申請だけで、公費解体を進めることができます。
②-2 滅失登記されていないが、建物性が認められないこと
 家屋等の所有者等から公費解体の申請を受け付け、建物性が認められないと考える理由(㋐建物全体が倒壊又は流出している、㋑建物が火災により全焼している、㋒複数階建ての建物の下層階部分が圧潰している、㋓建物の壁がなくなり柱だけになっている)により、建物性が失われていると判断される場合所有者全員の同意がなくても、公費解体が可能となります。

⑶ 倒壊家屋等以外の損壊家屋等への対応(建物性が失われていない場合)

 建物性が失われていない場合でも、「半壊」以上であれば、公費解体することは可能です。その場合の手続きは以下のとおりです。
① 所有者の確認
 不動産登記簿固定資産評価証明書(未登記の場合)、遺産分割協議書(所有者が既に死亡している場合)などを用いて所有者(単独所有、共有所有)を確認します。
②-1 共有者等に対する意向確認
 申請者(所有者)は、共有者等(共有者、法定相続人、その他の権利者)に対して、公費解体の手続を申請することに異議がないかの意向確認を行う必要があります。郵送で同意書を取得し、応答がない場合も状況に応じて公費解体を進めることができます。

意向確認の手順
① 損壊家屋等の不動産登記簿上の所有者等の戸籍を確認して、共有者等全員を特定する。
② 各共有者等の戸籍の附票を確認し、当該共有者等の現在の住所を特定する。
③ 書面を送付(郵送)し、解体・撤去について異議がないことの同意書を一定の期間(1ヵ月程度)内に送るように求める。

②-2 所有者不明建物管理制度の活用
 共有者又はその所在が判明しない場合裁判所が選任する管理人から同意を得て、公費解体を実施します。
③ 共有者等の意向を確認することが困難な場合
 例えば、不動産登記簿上の所有者が既に死亡している場合、相続が生じた時期が相当以前で、相続が繰り返されて法定相続人が多数に及び、その全員から同意書を取得することが困難である場合もあります。
 このため、意向確認(②-1)の状況や家屋の被災状況等を総合的に考慮してやむを得ないと考えられ、申請者が公費解体の申請をすることに対して共有者等から異議が出る可能性が低いと考えられる場合には、宣誓書(所有権等に関する紛争が発生しても申請者の責任において解決する旨の書面)の提出を受けることにより、公費解体を行うことができます

公費解体の手続等について、お困りごと等がございましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。
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行政書士内藤正雄事務所