遺言が遺されていない場合の相続手続

1 遺言の有無による相続手続の違い

 2022年(令和4年)の死亡数158万2033人に対し、同年の公正証書遺言の作成件数は11万1977件、自筆証書遺言の検認件数(22年が見つからなかったため、21年)は1万9576件で合計すると、13万1553件であり、大まかに言えば、死者の約1割(8.3%)が遺言書を作成しています。つまり、9割以上の人が遺言書を作成していないということになります。なお、令和2年7月から開始された自筆証書遺言保管制度による保管件数は、1万6954件(22年)となっています。
 有効な遺言書がある場合、その遺言に従って相続手続を行う場合には、遺産分割協議をすることなく、各種財産(不動産、預貯金、株式など)の名義変更や分配手続きが可能となりますが、遺言があったとしても一部の財産の分割方法しか書かれていない場合や遺言が無効となった場合は、法定相続人による遺産分割協議が必要になります。

2 遺言がない場合の相続手続

 遺言がない場合の相続手続の流れは以下のとおりです。

⑴法定相続人の確定(戸籍収集)

 民法第896条に「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と規定されています。したがって、相続手続を行ううえで法定相続人の確定が非常に大切になります。例えば、相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は無効になります。
法定相続人が配偶者と子しかいないような比較的単純な相続関係の場合には、それほど難しくはありませんが、複雑な相続関係の場合には、戸籍の取得通数も数十通にもおよび、戸籍収集まで数カ月におよぶ場合もあります。この相続の手続きに必要な戸籍を確実に集めていくことが何よりも重要です。
 必要となる書類(基本)は以下のとおりですが、兄弟姉妹が相続人になる場合は、被相続人の両親の死亡から出生まで遡った戸籍が必要となります。
 ・被相続人の戸籍の附票または住民票の除票
 ・被相続人の死亡から出生まで遡った全ての戸籍
 ・相続人の現在の戸籍・附票(または住民票)

⑵相続財産の確定

 遺産分割協議や相続税の申告をするにあたり、相続財産を特定する必要があります。できるだけ早い段階で相続財産の総額を把握することで、円滑に遺産分割協議や相続税の申告ができるようになります。また、財産目録を作成しておくと、遺産分割協議をしていくための参考となります。
ア 不動産
 固定資産税の納税通知書や名寄帳を基に、被相続人の所有不動産を洗い出し、所有物件をリストアップし、登記簿謄本や公図などを用いて、物件の内容を確認します。
イ 預金、株式
 通帳や定期的に送られてくる取引残高報告書等を確認し、被相続人と取引のあった金融機関や証券会社から残高証明書を入手します。
ウ 保険
 保険証券を確認して保険会社に連絡します。

⑶相続放棄するかどうかの選択(3月以内)

 民法915条に「相続人は、自己のために相続に開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」とされ、上記期間内に限定承認または相続放棄をしなかったときは、単純承認をしたものとみなされます(921条2号)。そして、単純承認すると、無限に被相続人の権利義務を承継することになります(920条)。
 なお、相続放棄は相続人が単独で可能ですが、限定承認は相続人全員で家庭裁判所に申述する必要があります。

⑷被相続人の準確定申告(4月以内)

 相続開始から4カ月以内に被相続人の所得を税務署に申告します。

⑸遺産分割協議書の作成

 法定相続人の確定により『誰が相続人か』が定まり、相続財産の確定により『相続手続をすべき財産』が定まります。後は、財産目録等の資料を参考に相続人間で遺産分けの話し合いを行い、決まった内容を基に遺産分割協議書を作成します。

⑹相続税の申告と納付(10月以内)

 相続開始から10カ月以内に被相続人が死亡した時の住所地の税務署に相続税を申告納付します。

⑺各種財産の名義変更手続き(移転登記を含む)

 協議成立後に遺産分割協議書まで作成すれば、各種財産の名義変更・解約手続きが可能となります。主なものは以下のとおり。
ア 不動産
 登記申請書を作成し、添付資料(相続人特定に必要な戸籍一式、遺産分割協議書など)を添えて法務局に登記申請します。
イ 銀行関係
 各銀行所定の様式に添付資料(同上)を添えて提出します。
ウ 証券会社
 基本的には銀行関係と同じ。
エ 自動車
 乗用車(運輸支局)と軽自動車(軽自動車検査協会)で手続き場所や書類が異なります。
オ 農地の相続届(農地法第3条の3第1項の規定による届出)
カ 土地改良区の組合員資格得喪通知書
キ 森林の土地の所有者届出
ク 固定資産税納税義務者(所有者)変更届(未登記家屋の名義変更届)

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行政書士内藤正雄事務所