「事業承継は考えているけれど、まだ元気だからもう少し先でいい」
そう考えている経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
事業承継というと、まず「誰に会社を継いでもらうか」が思い浮かびます。
しかし、もう一つ考えておきたいことがあります。
「事業承継が終わるまでの間に、自分に“もしも”のことがあったらどうなるのか」
という問題です。
2026年6月、成年後見制度と遺言制度を見直す法律が成立
2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立し、6月24日に公布されました。
今回の改正では、法定後見制度について、現在の「後見」「保佐」を廃止し、「補助」に一元化するなど、本人にとって必要な範囲で制度を利用できる仕組みへ見直されます。
また、遺言制度についても、電子データ等で作成し、法務局で保管する「保管証書遺言」という新しい仕組みが創設されます。
ただし、2026年9月現在、これらの主要な改正はまだ施行されていません。成年後見制度の見直しは公布から2年6か月以内、遺言制度についても改正内容に応じて公布から1年以内または3年以内の政令で定める日に施行されます。
今回の改正では、このほかにも「特定補助人」の創設、任意後見制度の見直し、自筆証書遺言の押印要件の見直しなど、さまざまな変更が行われます。
詳しい改正内容については、別の記事で整理します。
【関連記事】
2026年6月の民法改正で何が変わる?成年後見制度と遺言制度の見直しを分かりやすく解説
法改正そのものについては、法務省の公式ページでも確認できます。
法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について
この改正は事業承継にも関係する?
今回の改正は、事業承継そのものを対象としたものではありません。
それでも、事業承継に関わる立場から見ると、非常に関係の深い問題だと思います。
例えば、65歳の社長が、
「70歳になったら息子に会社を継いでもらおう」
と考えていたとします。
ところが、その5年間の途中で認知症などにより、重要な契約や財産について自分で判断することが難しくなったら、どうなるでしょうか。
「息子を社長にすれば大丈夫」と思われるかもしれません。
しかし、代表者を交代すれば、事業承継がすべて終わるとは限りません。
例えば、こんなことを確認しておく必要があります。
- 会社の株式は誰が持っているのか
- 工場や店舗の土地・建物は誰が所有しているのか
- 借入や個人保証はどうなっているのか
- 経営者が亡くなった場合、それらは誰に引き継がれるのか
後継者が社長になっていても、先代経営者が会社の株式や事業に必要な不動産を持ったままということがあります。
その状態で先代経営者の判断能力が低下すると、株式や事業用資産の承継など、予定していた手続きを進める際に問題が生じる可能性があります。
「誰に継ぐか」だけでなく「継ぐまで」を考える
事業承継を考えるときには、
「誰に継ぐか」
と同時に、
「継ぐまでの間に何かあったらどうするか」
も考えておく必要があります。
「自分が突然、重要な経営判断をすることが難しくなったら、会社はどうなるのか」
「株式は誰が持っているのか」
「事業に必要な土地や建物は誰のものなのか」
「自分が亡くなった場合、それらは誰に引き継がれるのか」
こうして考えると、事業承継は単に「社長を交代する」という話ではありません。
経営権、株式、事業用資産、借入・保証、そして相続。
これらを一体として考えておく必要があります。
遺言も事業承継に関係します
今回の改正では、遺言制度についても見直しが行われます。
中小企業では、経営者個人が自社株式や事業用不動産を所有していることがあります。
経営者が亡くなると、こうした財産も相続の対象になります。
そのため、
「後継者を決めているから大丈夫」
というだけではなく、
「株式や事業用資産を最終的に誰に引き継ぐのか」
という相続の視点も重要になります。
もちろん、遺言を作成すれば事業承継の問題がすべて解決するわけではありません。
株式の保有状況、相続人との関係、遺留分、税務、事業用資産の所有関係など、さまざまな点を一緒に考える必要があります。
状況によっては、税理士、司法書士、弁護士など、それぞれの分野の専門家と連携して検討することも必要になります。
元気なときだからできる準備があります
今回の民法改正を見て改めて感じるのは、事業承継は「いつか社長を交代する話」だけではないということです。
大切なのは、特定の制度を使うことではありません。
一度、
「自分が元気であることを前提にした事業承継計画になっていないか」
と考えてみることではないでしょうか。
誰に経営を引き継ぐのか。
株式や事業用資産をどうするのか。
借入や個人保証をどうするのか。
そして、承継が終わるまでの間に「もしも」のことがあったら、事業をどう続けるのか。
事業承継は、問題が起きてから考えるより、まだ選択肢があるうちに考え始めた方が、検討できることも多くなります。
「まだ何も決まっていない」段階でも相談できます
とはいっても、
「事業承継と言われても、何から考えればいいのか分からない」
「子どもが継いでくれるか、まだ分からない」
「まだ何年も先のことなので、相談するほどではない」
という経営者の方もいらっしゃると思います。
実は、事業承継は、後継者や承継時期がすべて決まってから相談するものとは限りません。
石川県事業承継・引継ぎ支援センターの「よくある質問」でも、後継者が決まっていない場合でも相談可能と案内されています。
むしろ、まだ選択肢がある段階で、
「自分の会社の場合、何を整理しておけばよいのか」
を確認しておくことにも意味があります。
全国の「事業承継・引継ぎ支援センター」は、国が設置する事業承継の公的相談窓口で、親族内承継から従業員承継、第三者への引継ぎまで相談することができます。
石川県では、石川県事業承継・引継ぎ支援センターが相談窓口となっています。
センターは、産業競争力強化法に基づき国からの委託を受けて実施されている公的な相談窓口で、相談は無料、秘密厳守とされています。親族への承継、従業員への承継、第三者への承継などに対応しています。
「まだ具体的には何も決まっていない」
そんな段階から、まずこれからのことを整理してみる。
それも、事業承継の第一歩ではないでしょうか。
石川県の事業者の方へ
石川県事業承継・引継ぎ支援センター
相談無料・秘密厳守
電話:076-256-1031
受付時間:平日8:30~17:15
所在地:金沢市鞍月2丁目20番地 石川県地場産業振興センター新館2階
センターでは、最初の相談で意向を確認し、必要に応じて専門家による支援や他の支援機関への橋渡しを行っています。
参考情報
法務省
「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について
中小企業基盤整備機構
「事業承継・引継ぎ支援センター」
※本記事は、2026年9月26日現在の公表情報をもとに、事業承継を考える際の一般的なポイントを整理したものです。改正法は段階的に施行されます。実際に成年後見、任意後見、遺言その他の制度を利用する場合や、個別の事業承継について判断する場合には、その時点の法令や制度を確認し、必要に応じて各分野の専門家にご相談ください。

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