相続登記の申請の義務化に係る手続の流れは? 自分でできないか?

1 課題

 法務省の資料によれば、土地や建物の相続登記がされないために所有者が不明となった土地や建物が、防災・減災、まちづくりなどの公共事業の妨げになっていることが社会問題となっています。

⑴ 背景

相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくとも不利益を被ることは少ない
〇都市部への人口移動や人口減少・高齢化の進展等により、地方を中心に、土地の所有意識が希薄化・土地を利用したいというニーズも低下
遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地共有者がねずみ算式に増加

⑵ 問題点

所有者の探索に多大な時間と費用が必要(戸籍・住民票の収集、現地訪問等の負担が大きい)
○所有者の所在等が不明な場合には、土地が管理されず放置されることが多い
共有者が多数の場合や一部所在不明の場合、土地の管理・利用のために必要な合意形成が困難
 ⇒ 公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引が阻害されるなど、土地の利活用を阻害
 ⇒ 土地が管理不全化し、隣接する土地への悪影響が発生
➡ 高齢化の進展による死亡者数の増加等により、今後ますます深刻化するおそれ
➡ 所有者不明土地問題の解決は、喫緊の課題

2 課題解決のための法律の概要

 1の課題を解決するため、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化の両面から、総合的に民事基本法制を見直した結果、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)(令和3年4月28日)」「民法等の一部を改正する法律(令和3年4月21日)」が成立しました。

⑴ 相続登記がされるようにするための「不動産登記制度」の見直し

 相続登記の申請の義務化(令和6年4月1日施行)
 相続人申告登記の新設(令和6年4月1日施行)
 所有不動産記録証明制度の新設(令和8年2月2日施行)
 所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示制度の新設(令和8年4月1日施行)
 住所変更登記等の申請の義務化(令和8年4月1日施行)
 職権登記制度の導入(令和8年4月1日施行)

⑵ 土地を手放すための「相続土地国庫帰属制度」の創設(令和5年4月27日施行)

 相続等により土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度

⑶ 土地利用に関する民法のルールの見直し(令和5年4月1日施行)

・相隣関係の見直し
 隣地使用権、ライフラインの設備の設置・使用権、越境した竹木の枝の切取り
・共有の見直し
 共有物の利用促進、共有関係の解消促進
・財産管理制度の見直し
 所有者不明・管理不全に係る土地・建物管理制度の創設
 既存の財産管理制度の見直し
・相続制度(遺産分割)の見直し
 具体的相続分による遺産分割の時的限界
 遺産共有と通常共有が併存している場合の特則
 不明相続人の不動産の持分取得・譲渡

3 相続登記の申請の流れ

 相続登記には、遺言による相続登記遺産分割による相続登記法定相続分による相続登記の3つがあります。それぞれの相続登記の申請の流れは以下のとおりです。詳細については、法務省民事局のHP「登記申請手続のご案内」を確認してください。

⑴ 遺産分割協議による相続登記の申請の流れ

①戸籍関係書類の取得
 相続開始の証明法定相続人を特定します。
 戸籍関係書類(戸籍謄抄本、除籍謄抄本)によって、相続が開始したこと(土地・建物の所有者が死亡した事実)を証明するとともに、法定相続人を特定する(他に相続人がいないことを証明する)必要があります。
②遺産分割協議・協議書の作成
 相続人の間で、被相続人(亡くなった方)の財産をどのように分けるかを協議・話し合い遺産分割)を行い、土地・建物の所有権を確定し、遺産分割協議書として書面を作成します。
③登記申請書の作成
 法務局(登記所)に提出する登記申請書を作成します。登記の申請は、作成した登記申請書を法務局(登記所)の窓口に持参する方法や、郵送する方法のほか、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」で登記申請書を作成し、これをオンラインで申請(送信)する方法があります。
④登記申請書の提出
 法務局(登記所)への提出
 作成した登記申請書及び添付書面を、その申請する不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)の窓口に持参する方法又は郵送する方法により、登記の申請をします。
⑤登記完了
 法務局(登記所)での登記が完了すると、法務局(登記所)から、登記完了証及び登記識別情報通知書が交付されますので、これを受領することで全ての手続が完了します。

⑵ 法定相続分による相続登記の申請の流れ

 法定相続分で相続するため、⑴の「②遺産分割協議・協議書の作成」の手続が無くなります。ただし、不動産が共有状態になったり、遺産分割協議後に登記内容を変更する場合、追加で手間と費用がかかったりするなどのデメリットもあるため、登記する前に、よく考える必要があります。
①戸籍関係書類の取得
③登記申請書の作成
④登記申請書の提出
⑤登記完了

⑶ 遺言による相続登記の申請の流れ

 遺言により誰が不動産を相続するのか決まっているため、⑵から更に「①戸籍関係書類の取得」の手続が無くなります。ただし、自筆証書遺言自筆証書遺言保管制度を利用したものは除く)は、相続登記を申請する前に家庭裁判所の検認が必要になり、全文自署など民法で定められた形式を満たしていない自筆証書遺言では相続登記ができません
③登記申請書の作成
④登記申請書の提出
⑤登記完了

4 相続登記を自分で手続するには?

 相続登記を自分で手続するには、3の流れに従って、必要書類を準備して、法務局に提出すれば可能です。ただし、登録免許税戸籍謄本などの取得費用は、実費に相当するものなので、専門家に依頼しても自分で行っても同じ金額がかかります
 また、相続登記と言っても、相続人の数や権利関係の複雑さによって難易度は大きく変わります。一般に、以下のような場合は専門家に依頼する方が良いでしょう。
相続関係が複雑な場合(①②に手間暇がかかる)
 異母兄弟がいる場合や認知した子がいる場合、養子縁組離縁をしている場合、
 兄弟姉妹が相続人になっている場合で代襲相続が発生している場合など
相続した不動産が未登記(③に手間暇がかかる)
 複数の相続登記を申請する必要ありますが、難しいのは、数次相続となるため、相続関係が複雑になる可能性あるためです(①②に手間暇がかかる)。
 相続登記できるのは、弁護士司法書士のみです。一方、行政書士ができるのは、①の「戸籍関係書類の取得」と②の「遺産分割協議書の作成」のみです。したがって、行政書士が、相続登記に係る業務を実施する場合には、行政書士は全体をコーディネートするとともに、①②は行政書士が実施して、③④は司法書士にお願いする(依頼者が自分でできそうであれば自分で実施)という流れになります。
 つまり、相続登記を自分でやって、できるだけ費用を抑えたいという方は、以下のとおりになるかと思います。
 相続関係がそれほど複雑でなければ、法務省民事局のHPに掲載されている「登記申請手続のご案内」等を参照しながら、自分で相続登記の手続をするか、①②は自分で実施して③④を司法書士にお願いする。
 相続関係が複雑な場合は、①②を行政書士にお願いして、③④は自分で実施すれば良いということになるかと思います。
 そんなの面倒だという方は、お近くの司法書士又は行政書士にご相談ください。

 相続登記に関して疑問点等がございましたら、お気軽に当事務所にお問い合わせください。
行政書士内藤正雄事務所