公正証書遺言のメリット・デメリット

 以前、「正しい遺言書を遺すためには?」において、「公正証書遺言のメリット・デメリットをご自身の置かれた状況に照らし合わせて考え、メリットが大きいと感じたら公正証書遺言を利用し、メリットがそんなに無いと感じたら自筆証書遺言を利用すれば良いでしょう」と書きましたので、日本行政書士会連合会等の研修資料を参考に、公正証書遺言のメリット・デメリットについてまとめてみました。

1 公正証書遺言のメリット

 公正証書遺言について、自筆証書遺言と比較したメリットは以下のとおりです。特に、⑴⑵について、公証人がリーガルチェックをするため、遺言書が無効とならないことが大きなメリットです。但し、後で述べるとおり、無効にならないからといって、争いが生じないとは限りませんという点に留意する必要があります。

⑴ 内容の正確性、遺言要件に不備がないことを公証人がチェックしてくれること

 遺言に記載したからといって、その全てに法律上の効果が生じるわけではなく、法律上の効果が生じる事項は、以下のとおり、民法等で定められている一定の事項に限られています。
① 相続に関する事項
 ・相続人の廃除・取消し
 ・相続分の指定・指定の委託
 ・特別受益の持戻しの免除
 ・遺産分割の方法指定・指定の委託
 ・遺産分割の禁止
 ・相続人相互の担保責任の減免・加重
 ・遺留分侵害額の負担順序の指定
② 財産処分に関する事項
 ・遺贈
 ・財団法人設立のための寄付行為
 ・信託の設定
③ 身分に関する事項
 ・認知
 ・未成年者の後見人の指定
 ・後見監査人の指定
④ 遺言執行に関する事項
 ・遺言執行者の指定・指定の委託
⑤ 配偶者居住権に関する事項
 ・配偶者居住権の遺贈
 ・配偶者居住権の存続期間の指定
⑥ その他の事項
 ・祖先の祭祀主宰者の指定
 ・生命保険金受取人の指定・変更

 公正証書遺言の場合、公証人が、以上の内容の正確性、遺言要件の不備がないかなどリーガルチェックをします。また、個々の文言が明確で遺言者の意思に沿った内容となっているか、漏れがないか、誤記はないか、全体として矛盾した内容になっていないか、効力は生じるかなどを確認します。
 この際、相続人同士が争わないように、遺そうとする遺言について、相続・遺贈を受けるプラスの財産と債務等のマイナスの財産のバランスはどうか、利害関係人から異議や遺留分侵害額請求を受ける可能性、遺留分侵害額の程度、遺言執行がスムーズにできるか等を確認してもらい、その解決策を検討しておくことが大切です。そのためには、相続関係図、利害関係人、相続財産の情報等がないと的確な検討ができないため、それらの情報を提供する必要があります。

⑵ 遺言者の意思能力(認知症等)を公証人が確認してくれること

 遺言は、15歳以上で遺言能力を有する者であれば、遺言することができます。遺言を作成したいと思う人の年齢は、60歳代後半から80歳代で、90歳代も少なくありません。中には認知症等が疑われ、遺言者が遺言できる意思能力を有しているかどうか微妙なケースもあります。このような場合、公証人は、遺言者本人と面談して、その様子、日常会話などを含めて、遺言を作成できる意思能力があるかどうかを確認します。なお、年間11万件余りの公正証書遺言が作成されていますが、これまでに公正証書遺言が意思能力の欠けていることを理由に無効とされた例は数件程度とのことです。これに対し、自筆証書遺言(自筆証書遺言書保管制度の利用を含む)については、遺言者の意思能力について何ら審査されているものではなく、意思能力の点で確実に保証されているのは公正証書遺言ということになります。

⑶ 裁判所の検認が不要

 自筆証書遺言は、裁判所の検認が必要ですが、公正証書遺言の場合には検認が不要です。但し、自筆証書遺言でも自筆証書遺言書保管制度を活用した場合には、検認は不要です。

⑷ 原本の安全確実な保管

 自筆証書遺言(自筆証書遺言書保管制度を活用した場合を除く)は、原本を確実に保管することが非常に難しいです。誰にも分からない場所に保管すると死後に発見されることがないまま、遺産分割協議により相続が終了することになりかねません。また、信用できる人に預ける方法もありますが、預かった人が認知症等になるおそれもあり、遺言の内容を知られ遺言の内容に不服がある関係者が破棄したりすることもあります。
 公正証書遺言は、原本は作成した公証役場で保存しており、破棄・隠匿・改ざんのおそれはなく、天災等に備えて、データとしても登録しており、また、相続が発生するまでは本人以外に開示されることはありません。また、全国の公証役場で遺言検索することができますが、相続が生じるまでは遺言者本人からの申し出でしか検索することはできないので、秘密が保てるとともに、遺言の内容によって利害を受ける人から干渉等を受けることもありません。
 なお、自筆証書遺言書保管制度を活用した場合には、公正証書遺言を同様に安全確実に保管することができます。

⑸ 秘密保持が可能

 ⑷のとおり、公正証書遺言と自筆証書遺言(自筆証書遺言書保管制度を活用した場合)とは殆ど変わりません。
 但し、公正証書遺言の場合、証人2名を必要としますので、知人を証人とした場合などには、つい漏らしてしまうのではないかと秘密保持に不安があります。不安がある場合は、多少費用はかかりますが、公証役場等で証人を依頼すると安心です。

⑹ 自筆証書遺言は手続要件が厳しく、無効となるおそれがある

 詳細は「どんな場合に遺言書は無効になるのか?」に書いたとおり、自筆証書遺言は一定の様式が定められており、目録以外は全文及び作成した日付と署名を自書し、これに押印しなければ無効になります。また、加除訂正も要件を満たさないと無効になります。
 手続要件を厳しくしているのは、遺言を後から改ざんされないためであり、本人の意思によることを明確に保証することにありますが、高齢者になるほど、複雑な内容になるほど、自書するのは難しくなってきます。

2 公正証書遺言のデメリット

⑴ 作成手数料の負担がかかる

 公正証書遺言を作成すると手数料がかかりますが(相続財産や相続人が多いほど手数料は高くなる)、1億円の遺産で約7、8万円程度、上記のメリットに対する対価だと考えることができれば、そんなに高くはないといえます。
 なお、⑵の資料等の費用も必要になります。

⑵ 手続きが面倒で費用や時間がかかる

 公正証書遺言を作成するときは、公証人と打ち合わせをして、案文を作成して行きます。そのため、印鑑登録証明書戸籍関係、相続や遺贈を受ける人の住民票、財産関係についての登記事項証明書、預貯金通帳、固定資産評価証明書等の資料を整える必要があり、費用や時間がかかります。また、証人2名を公証役場にお願いする場合は、その日当も必要になります。
 上記について、行政書士等の専門家を活用すれば、費用はかかりますが、皆さんの負担を軽減することが可能です。

⑶ 争いが生じる可能性がある

 最初に無効にならないからといって、争いが生じないとは限らないと書きました。それは、遺言書の内容が「財産の全てをAに相続させる」といった内容だった場合、A以外の相続人の中に遺言書の内容に不満がある場合です。
 公正証書遺言は、遺言者の意思どおりに作成するため、利害関係人の中には不満に思ったり、異議を持ったりする者が居て、争いが生じる可能性があります。

3 公正証書遺言の留意点

⑴ 争いが生じる可能性

 2⑶のとおり、公正証書遺言だからといって、必ずしも相続人間で不満が無くなったり、争いが無くなったりするわけではありません。でも、なるべく相続人同士の争いを避けてほしいと思うのであれば、1⑴に書いたとおり、相続人同士が争わないように、遺そうとする遺言について、相続・遺贈を受けるプラスの財産と債務等のマイナスの財産のバランスはどうか、利害関係人から異議や遺留分侵害額請求を受ける可能性、遺留分侵害額の程度、遺言執行がスムーズにできるか等を確認し、事前にその解決策を検討することが重要です。
 そのためには、公証人に対して、遺言者と相続人や利害関係人との関係を正確に把握してもらう必要があり、相続関係図、利害関係人、相続財産の情報等を整理して情報提供することが必要です。また、遺言者だけではなく、相続人や利害関係者の立場にもなって検討する必要がありますが、そのためには、できるだけ公平中立の立場で情報提供することが重要です。そのためには、信頼できる行政書士などの専門家を通して公証役場を活用した方が、その分費用はかかりますが、安心して遺言書を遺すことができます

⑵ 遺言執行

 遺言を遺しても、この内容を実現できなければ意味がありません。そのため、遺言執行者の制度が設けられ、遺言執行者が遺言の内容を実現するための手続きを行います。
 遺言執行者は遺言で指定でき、指定しておけば、その遺言執行者が遺言の内容を実現してくれます。遺言執行者は相続人でも第三者でもなれますが、信頼できる相続人あるいは行政書士などの専門家を指定しておくことが賢明です。また、遺言作成に関わった行政書士等が遺言執行者になることで、遺言者の意思を理解した上でスムーズな手続きが可能となります。

 遺言・相続に関して疑問点等がございましたら、お気軽に当事務所にお問い合わせください。
行政書士内藤正雄事務所