子どもが小さい(未成年)の場合、遺言書は必要でしょうか?万一の場合に備えて、子どもが大きくなるまで(成年になるまで)、簡単な遺言書を書いておくことは、良い選択肢の一つといえるかもしれません。
1 遺言が無いとどのような障害があるか?
子どもがまだ小さいのに、夫が亡くなってしまった場合、配偶者(妻)は、今後の生活のために夫の財産を全て相続したいと考えるでしょう。夫名義の銀行口座も凍結されてしまうので、早く名義変更したいと思います。遺言が無い場合、この名義変更の手続きをするためには、法定相続人を確定して、相続人全員で遺産分割協議書を作成する必要があります。
夫に離婚歴があれば、前妻との間に子どもが居る可能性があります。前妻には相続権はありませんが、その子どもには相続権があります。まずは夫に離婚歴が無いこと、有ったとしても子どもが居ないことを証明する必要があります。そのためには、夫の出生から死亡までの戸籍を収集し、法定相続人を確定する必要があります。離婚歴が無い又は前妻との子が無い場合には、法定相続人は、配偶者と子どもに確定されます。
次に、遺産分割協議書の作成ですが、相続人全員の合意が必要なため、配偶者だけでなく、子どもの同意も必要になりますが、未成年者の場合、単独で法律行為が行えません。通常は母親が代理人となりますが、遺産分割協議の場合、法律的に母親と子どもの利益が対立しています(利益相反)。そのため、裁判所に申し立て、「特別代理人」という子どもの代理人を選任する必要があります。そして、配偶者と特別代理人が話し合って、遺産分割協議書を作成することとなります。
以上のとおり、遺言が無いと、相続争いは無くても、名義変更のための手続は非常に煩雑になるとともに、費用(戸籍の入手、特別代理人の選任)も発生します。
2 遺言がある場合の手続きは?
子どもが未成年の間、配偶者(妻)に全てを相続させたいのであれば、「全財産を妻に相続させる」という自筆証書遺言を作成しておけばそれで十分です。この場合、自筆証書遺言書保管制度を活用して、法務局で遺言書を保管してもらえば、偽造・変造・滅失・隠匿・未発見のおそれもなく、検認も不要になりますので、スムーズな相続手続(名義変更)が可能となり、法定相続人の確定や遺産分割協議書の作成も必要ありません。
3 自筆証書遺言保管制度とは?
自筆証書遺言は、自書さえできれば遺言者本人のみで作成でき、手軽で自由度の高いものです。しかし、遺言者本人の死亡後、相続人等に発見されなかったり、一部の相続人等により改ざんされたりする等のおそれが指摘されていました。
この自筆証書遺言のメリットは損なわず、問題点を解消するための方策として、自筆証書遺言書保管制度が創設されました。
⑴遺言書の保管までの流れ
①自筆証書遺言を作成する
②申請書を作成する
申請書の様式は法務局HPからダウンロードできます。
亡くなられた後に通知したい相続人等を1名指定できます。
③保管の申請の予約をする
予約せずに法務局に行った場合、長時間待たされる可能性があります。
④遺言者本人が、法務局に出向き、自筆証書遺言の保管の申請をする
代理申請できません。
⑤法務局では自筆証書遺言の方式について外形的な確認を行う
遺言の内容についての相談はできません。
⑥保管証を受け取る
遺言者は預けた遺言書の閲覧や保管の撤回、変更をすることができます。
なお、相続人等は、遺言者が亡くなられるまでは閲覧等することができないので、秘密を守ることができます。
⑵保管の申請に必要なもの
・遺言書(自筆証書遺言) 注意:ホッチキス止めしないようにして下さい。
・申請書
・添付書類(本籍の記載のある住民票の写し等)
・本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証等)
・手数料(収入印紙) 1通につき3,900円
⑶遺言者が亡くなられた後の手続
①相続人等は、遺言書の内容の証明書の請求や遺言書の閲覧をすることができます。
②①をした場合、遺言書が法務局に保管されていることが、その他の相続人等に通知されます。
③法務局において保管されている遺言書については、家庭裁判所での検認が不要です。
遺言・相続に関して疑問点等がございましたら、お気軽に当事務所にお問い合わせください。
「行政書士内藤正雄事務所」